これが僕らの物語

□中村さんの物語
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カードキャプターとしお(笑)

「汝の在るべき姿に戻れっ、クロウカードォ!!」
その男は雄々しく、羽の付いたバトンに似た杖を振りかざして叫ぶ姿はまるで修羅の如く。
「ぬうええぇぇいっ!!」
可愛らしい姿をした不思議なものがじたばたと逃げ回るも、男の持つ杖の先端に具現化された長方形のプリズムに吸い込まれるという図は何故かしら、犯罪を犯しているかのように見えてしまう。
「ひゃーっはっはぁっ!!」
その男の笑い声はこの場にいる者達に戦慄と畏怖だけを残す。
やがて、不思議なものは長方形のプリズムと一体化し、一枚のカードになって男の手元に飛んでいき、すうっとその手の中に納まる。
「【レイン】のカードか…。ふん、笑止千万だな」
そう言って男は右腕の袖の辺りに付いた水滴を振り払う。そしておもむろに懐から一枚のカードを取り出す。
「フライ」
男はそう短く呟き、そのカードを杖で叩くと、突然杖に大きな鳥の羽が生えた。しかしこの男が言ったフライは“飛翔”という意味のフライではなく、油で揚げる意味のフライを連想してしまうのは私だけだろうか。
「おい、×××××。それ以上ふざけた事抜かしたら殺すぞ」
―あ、あぁ。すまない。しかし、この男の杖の扱いを見ていると可憐さなどというものはまるで感じられず、どう見ても荒ぶる…、そう、ちょうど日本という国に存在しているコンゴウリキシとかいうのにそっくりだ。
「死にたいか?」
…滅相もない。済まなかったな、非礼を詫びよう。
ふっ、私も語り手としてはまだまだだな。

―男の名前は、誰にも分からない。ただ分かるのは男が、クロウカードと呼ばれるカードが実体化した不思議で不可思議なもの達を、杖を行使しそれらを封じ込め、再びカードにする事だ。
それ故に人はこう呼ぶ、カードキャプターとしお、と。

そして私は思った、なぜ彼の名前はひらがな表記なのか。私の考えとは裏腹に彼の答えは単純明快だった。
「かわいいからだ、文句でもあんのか!?」
としおは私に向かって杖を構える。とんでもない、可愛いです(恐)
…ふぅ、何で私がこんなところで油を売っているのだろうか。
まぁ私は誰にも負けるなんて事はありえない。が、ただこの男は色々とやりにくいので相手にしたくはない。

―そもそも私は木之本桜とかいう可愛い女の子が杖を持って戦ってくれるというからひそかにその可憐な姿を一目見ようと期待していたのだ。
それをなんだあの男は。巨人のような筋肉質の男、おまけに性格が自己中心的。大体むさ苦しい男がひらひらのレースが付いた服を着て少女漫画みたいな展開を繰り広げているのを見ていて何が楽しいのだろうか。いや、楽しいわけがない。むしろ私はその男が持つ訳の分からない威圧感に苛まれる。それは苦痛以外の何物でもない。

申し遅れた、私の名前は×××××・×××××××。
ある世界では××××と呼ばれている。
ただし、私は×××××であって×××××でない。なぜなら私は…。

…それはまた別の話になる。
それに今、私は×××××として私の本当の名前を伏せている。だから名前を呼ぶ時は何かと不便だろう。そういうわけで、私は【夢追い人】と名乗る事にしよう。
私は夢の世界の語り手、とはいってもまだ見習いではあるがね。
それ故にこうして好きでもないとしおに同行している。
「俺に付きまといやがって…、ホントやな奴だぜ」
ここで賢明な読者ならお気付きのはずだ。
本来、カードキャプターにはクロウカードを守護する封印の獣【ケルベロス】が付いているはずだという事を。
私はその事について聞いてみた。しかし、返ってきた答えは、
「あぁ、ケロちゃんか。それなら俺が喰った」
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