これが僕らの物語

□ウツシヨノモノガタリ
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―ねみぃ。
冬の昏い朝。
この時間帯でなかろうと冬の寝床は何故にドリーミーでスゥイートなんだろうか、俺の最大の疑問ですねぇ。うへへ〜ぃ…。

「ゴルァッ!!ナナミぃ、いつまで寝てんだ!?起きろやーっ!!」
人がせっかくポワポワしてっ時に…、ったく、
「うるひゃーいぃ…」
あら、微妙な声しか出ねぇ。
ちなみにギャーギャーと口喧しく騒いでいるのは俺んちの母ちゃん。デューク更家の真似してペリカンウォークしてたら腕の勢い付きすぎて壁にぶつけて骨折しちまったんだぜ。バカみてぇ。
それでも母ちゃんの力は衰える事無く片手だけでも軽々と布団を持ち上げられるので、
「フギャッ」
俺は冷たいフローリングの上に転がり落ちる。あ、言い忘れてたけど俺んちは普通に洋風なのに俺だけ布団。
つーかベッドは寝返りが出来なくて何かすげームカつくんだよね。分かんないかなぁ、この気持ち。
「一人で起きれない奴が親に口答えするなんて生意気言ってんじゃねぇぞ!!」
そう言って母ちゃんは、この部屋のすぐそばにある便所の水道で手を濡らし、
「ほらっ!!」
と、一声上げて、
「ほぎゃー!!」
俺の顔に水で濡れた手をビタっとくっつける。
ほにいぃ!!あまりの感触の気持ち悪さに寒気がっ!
貴様、中年のかかあの手なんざうすら粘っこいんだよっ…!!
「やっと目ぇ覚めたか。ほら、早く学校に行く支度しなっ!!」
「…へぇへぇ。分かったって」
俺は粘る水の付着したフェイスを一心不乱に洗い、タオルで拭き取る。
「Uh〜。フレッシュだぜぃ」
今日もまた何一つ変わらない日常が始まる。
Fu〜m、なんかおもしれぇ事ないかなぁ?

とか思っているうちに身仕度を済まし、俺はいつもの駅へと歩いて出掛ける。

…それにしても今日はいつもよか積雪量が半端じゃないぐらいに多いんだよね。もしかして汽車止まってたりして。
俺は朝から無駄に祈ってみたりする。
まぁ、んな事やっても無駄だな。

―キィィンッ。

何だ?耳鳴り…、みたいだけど…。

―キィィンッ。

あー、あーっ。
ちっ。だめだ、キーンって音ばっかで全然聞こえねー。
まぁ、いいか。
「ナナミーっ、さっさと出発しろっ!」

え?…あ、やっべぇもうこんな時間か。
「よし、アス〇ン・ザラ、出るッ!!」
「くだらない事言ってねーでさっさと行け!」
…ねばねばに頭にゲンコツ一発こづかれたよ。
「何だって!?」
「行ってきまーす!」
母ちゃんめ、ナレーションに口出すなんてなんて野郎だ。むしろアマ。雨具。
―キィィンッ。―キィィンッ。

…まただ。ホント、何なんだろうな。

俺が駅に着くといつもと比べ物にならないぐらいの人だかりが出来ていた。
「ひょー、今日は随分と人がいるなぁ」
辺りを見渡すと、結構顔見知りの友達がいた。
「あ、ナナミくーん。グーテンモルゲーン♪」
周りを見渡していると駅の奥から小さな鈴のように透き通る声が聞こえた。
高砂瑛菜(たかさご・えな)。付け焼き刃のドイツ語をしばしば使用してくる女子、まあまあ可愛いけど多少変わり者。
まぁ俺みたいな奴に話し掛ける時点で変人の片鱗を見せている。
「おっす、おはよーさん。なぁ、瑛菜よー。今日は何でこんなに混んでんの?」
「なんか最上〜新庄区間の電車が完全に運行停止なんだって」
「嘘!?じゃ今日は学校休めんじゃねぇ?」
「うん、このまま代行バスも運転見送りになるんだって」
よっしゃあっ!今日はラッキーな日だぜ。
さーてと、じゃコンビニ寄っておでんと焼き鳥でも買ってさっさとゴーホームしよう。

―キィィンッ。

…また耳鳴りだ。せっかく忘れてたのによ。
あ、そうだ。
「瑛菜、お前もコンビニ行かない?おでんおごってやるよ」
「ホントに!?うわぁ…、ナナミ君、ダンケ、シェーン!」
瑛菜がたぶんドイツ語で何か言ったんだろう。とりあえず場の雰囲気を予測して、ありがとう辺りかな?
「どーいたまして」
おっと『し』が抜けてる。
とりあえずコンビニへと向かい、店員におでんと焼き鳥を頼む。
「ボンボチとちくわ、大根、はんぺんをそれぞれ二つずつね」
俺はそれらを受け取り、立ち読みをしている瑛菜を呼んで、雪の降る中、外で止まなさそうな雪を見上げながら中身を確認する。
「さーて、ボンボチ様のお出ましだ」
俺は袋の中に手を突っ込む。

―キィィンッ。―キィィンッ。
しつっけーよ、この耳鳴り。
「…あれ?ナナミ君、これ3つ入ってない?」
「え?」
袋の中を覗き込む。
「…お、おおっ!ボンボチ様が三つ!ラッキィーッ!!」
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