宝物

□土方十四郎の受難
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江戸のどんよりとした寒空に、ひゅるり、と北風が吹いた。
徳川家康公の像の下。
黒髪に赤いバンダナ、深い灰色の着流しとチグハグな格好の人物が膝を抱えていた。
銀時はそれを黙認すると厚い半纏をただし、見なかった事にして通りすぎようとした時、

「坂田氏ぃぃぃーーっ!!!」

がしりと肩を掴まれた。
余りの大声に、行き交う人々の怪訝な視線が二人に突き刺さる。

「煩ぇぇんだよ!!俺の鼓膜が破れたら、どーすんだっ!!あ!?」
「てめーの鼓膜なんか一生破れ…、坂田氏ぃぃぃ!待ってぇぇ!」
「何で口調変えてんだ!気持ち悪りぃんだよ!!これから銀さんはお汁粉食べに行くの!邪魔すんなぁぁ!!」

腰のベルトをしっかり握られ、チグハグな格好をした人物を引き摺りながらも銀時は歩を進める。

「待って!待って、坂田氏ぃぃぃ!大変な…、自分の問題は自分で解決す…、大変なんだ!僕ともう一人の僕がすぐに入れ替わってしま…、ふざけんな!勝手に相談すん…、お願いでござる!!助けて、坂田氏ぃぃぃ!!」

あまりに様子がおかしくて銀時が振り替える。
彼の目の前には、土方十四朗ともトッシーとも言えない男が立っていた。


お汁粉が美味しい老舗甘味処は、男の子のマスコットが目印。
その店で二人の男が過ごして、約一時間。
げんなりと天井を見上げる銀時と、忙しなく口調や表情が変わる男。
香ばしい玄米茶を啜ると、溜め息混じりに銀時が沈黙を破る。

「多串君とトッシーが互いの意識保ったまんま、数秒毎に入れ替わってる。体はトッシーが九割、マヨが一割支配している状態。で、間違いねぇか?」

問い掛けられた男は嬉しそうに頷きかけて、眉間に皺を寄せ舌打ちをした。
銀時が口にした事を、土方十四郎及びトッシーが説明するのに約一時間。
一つの体で二つの意識がせめぎ合い、一言で済む説明が数倍の時間をかける。
げんなりするのも無理は無い。
銀時はお汁粉の椀を既に五つ空けている。

「これにどっちかが入れば良いんじゃない?じゃ、そういう事で俺は帰るわ」

いつの間にか店のマスコット人形を卓上にドンッと置き、銀時が席を立つ。

「坂田氏ィ!無理でござ…、ふざけんなテメー!!」

叫ぶと男は抜刀し、無惨にもマスコット人形は食卓ごと縦真っ二つに斬られた。
それを気にもせずに銀時はレジカウンターの前で、財布を開く。

「お客様、あちらはお連れ様ですね?損害は体で払って貰いましょうか」
「連れっていうか…」

銀時の言葉を待たずに、店主は銀時と土方の襟首を掴むと厨房へと入って行った。
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