SS置き場

□決断
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大切だから何も言えない。

傷付けたくないから進むことが出来ない。

この思いの行き場があればいいのに。




(決断)

1.

「星を見に行かないか?」

ゴールデンウィークも残すところ
あと1日に迫った昼下がり、
一人で留守番をしていた夏目は
突然の誘いに面食らう。

急に現れてはいつも驚かされる存在、
名取周一からの誘いであった。

あまりに突然のことで
二、三度瞬きをする時間を要した。


「えっと… 星、ですか?」


「あぁそうだよ、
君と見に行きたいんだ。
 一緒に行こう。 」


キラキラ必殺スマイルで
攻撃してくる名取に夏目は弱い。

初めて会ったときに比べたら
夏目にとって名取は
特別な存在になっていた。


だが、気を許しすぎると
何もかもを曝け出してしまいそうで

…怖いと思う。

黙り込んで何も言わない夏目に対して、
名取は明るい声で言う。

「言葉にならないほど
嬉しいんだね。
 それじゃあ明日の夜に
迎えに来るから、
 またね夏目。」

突然押し掛けて来て、
風のように去っていく名取。

あっけに取られている間に
さっさと自己完結して行ってしまった。


「なっ、名取さん!?」


しまった!

勢い良く玄関を開けて外を見るが
既に姿はなかった。

行くとは言ってない。

項垂れて玄関前に
立ち尽くしていると
呑気な声が掛かる。

「なつめ〜、
何をぼーっとしてる?
あほうな顔して。」

ポテポテとどこからともなく現れた先生。

「ニャンコ先生、
 あほうな顔はひどいだろうがっ!! 」

「誰がどう見てもあほうだ。
 何かあったのか? 」

神妙な顔付きの先生がいた。

「…いや、何でもないよ、先生。」

咄嗟に誤魔化してしまった。

後ろめたいことなんてないはずなのに…。

「そうか…。」

それ以上何も言わずに
家の中に入って行く先生。

どことなく寂しそうな背中に心が傷んだ。



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