SS置き場

□我儘を言う俺を許して
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先生が怪我をした。

しかも俺を庇って…。

胸を抉られるような痛みが襲い、
小さな身体をただ抱き締めた。



「我儘を言う俺を許して」



妖が見えなくなった時も
俺はとても不安になった。

今まであれだけ苦労させられ、
失うものが多かった存在なのに…。

だが今では俺の存在を
確かなものにしてくるまでになった。

先生はその中でも一番で、
俺にとってかけがえのない存在だ。

まさか俺を愛してくれる存在が
現れるとは、想像もしていなかった。

だから不安になる。

先生がいなくなって
しまったらと思うと堪らない。


きっと俺は――

支えがなければ
足元から崩れ落ち、奈落の底に
堕ちてしまうだろう。


とても怖いと思うんだ。


愛を知ってしまったから
――失えない。


もっと強くなりたい。

大切な者を守れるように。



「夏目大丈夫か?」


労るような優しい声が聞こえる。

ふと目を開ければ、
招き猫姿のニャンコ先生が
穏やかに微笑んでいた。

先生を抱き締め
いつの間に眠っていたのか…。

いやそんなことはいい、
先生が目を覚ましたんだ!!

込み上げてくる思いのままに動いた。


「ニャンコせんせっ!」


名前を呼んで、細い腕で
しっかりと抱き締める。

華奢な肩を震わせ嗚咽を噛み殺す。


「・・・っ先生が目を
 覚まさなかったらって
 思ったら怖くて…怖くて…。
 俺がうっかりしてたせいで
 先生に怪我をさせるなんて。
 ごめん先生。」


「だから目覚めて本当に良かった…。」
と力無く呟く夏目に、
先生はそっと寄り添い
胸に頬を摺り寄せた。


「この私があんな低級に負ける訳はない!
 今回はちょーっとドジっただけだ。
 だから心配には及ばん。
 カッコいいとこ見せようと
 思ったのにざまあないわ。」
 

明るく笑って、ゆっくりと話す
先生が優しくて温かい。

夏目の心は少しずつ癒され
ほどけていく。


「先生俺もっと強くなるから…。
 だからいつまでも傍に居て欲しい。 」


我が儘な願いを口にしてしまう俺に
「もちろんだ。」
と返してくれた先生が愛しい。

先生がいれば何も他にはいらない。

先生が俺の全て…。







END

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