SS置き場

□消したい感情
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「夏目、なつめっ。」

凄まじい激情に身を任せ
夏目を翻弄する。

熱を帯びた肌に手を這わせれば
波打つ肢体。

柔らかな唇に貪りつくように
吸い付けば喘ぐ声。

その一つ一つを刻み付ける。

身体に、記憶に――。

何故人には永遠が無いのだ。

こんなに愛しているのに。

こんなに求めているのに。

ふとした日常の中に潜む影に
現実を突きつけられ
途方も無い深淵に落とされる。

そのまま動けずに
立ち尽くしてしまう時は
全てを忘れさせて欲しい・・・。




「消したい感情1」




今日も夏目があやかしに関わって倒れ、
熱を出した。

用心棒が聞いて呆れる。

自分の不甲斐なさが堪らない。

横になって休んでいる夏目の傍らで
意気消沈している私に掛ける優しい言葉。

「大丈夫だから心配しないでくれ。」

しょげている私の頭を撫でて
笑いかけてくれた。

その微笑が胸に詰まって仕方なく、
益々苦しくて切ない気持ちに私をさせた。

心配するなと言われてもそれは無理だ。

泣きそうな顔をしていたのだろうか。

夏目は私を抱き寄せ、折れそうな細い腕で
ギュッと抱き締めてくれた。

平時より高い彼の体温にまた胸が痛くなる。


夏目はいつも優しい。


そういつだって・・・。


「先生は悪くないよ。
 俺が弱いだけだ。
 だからもっと強くなりたい。
 自分の為に、先生の為に。
 俺、頑張るから・・・。」



耳元で微かに、
だが心には確かに届く声で
夏目が私に告げた言葉に
胸が締め付けられる。

何も言えずに黙っていると
頬を撫でる繊細な指。

顔を上げると夏目の穏やかな顔があった。


「先生泣いちゃだめだ。
 らしくないよ。」


そして少し悪戯っぽく笑い掛ける夏目。


「・・・泣いてなんか「心が泣いてる。」

「俺の所為だよな?
 ごめん、先生。」


眉を寄せ悲しそうな瞳を宿す夏目に
狂おしい程切ない気持ちを抱く。


「だけど――
 俺は嬉しいんだ。」


言葉を切り、言い淀む夏目に尋ねる。



こんなに苦しいのに?


切ないのに?



「嬉しい?」



―――なぜ?


「先生がこんなに俺のことを
 大切に思ってくれていることが
 とてつもなく嬉しくなってしまう
 俺がいる。

 ・・・最低だよな俺。

 でも今までこんなに
 愛されたことが無かったから。
 だから、嬉しいんだ。」


困ったような、嬉しいような
そんな表情を乗せて私に送られた言葉。

「私はいつだってお前だけを
 愛している。
 だからこそ夏目には
 苦しい思いをさせたくない。
 それなのにっ・・!!」

「先生は何も悪くない。
 俺は矛盾した感情を抱いている。
 だから、責めないでくれ。
 ごめん、上手く言えない・・・。」

そう言って私を更に強く抱き締めた。


 夏目・・・。


切り裂くような感情のうねりが
身体を駆け巡る。


抗うことが出来ない斑。

そのまま人の姿に変化し、
今度は夏目を掻き抱いた。




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