SS置き場

□あと一つの勇気
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「夏目、共に行かないか?」

しなやかで逞しい腕が目の前に
差し出された。

その手を掴んでしまったら
後戻り出来ない気がする。



俺は―――。



「あと一つの勇気1」




「夏目!大丈夫かい?!」

ぼんやりと、月明かりが
照らし出した世界に
聞き覚えのある声。

今日もあやかしに
追いかけられてこのざま。

崖から足を踏み外して落ち、動けない。

先生も今日はいないなんて…。

「夏目、聞こえてるのか?!」

切羽詰った声がどんどん近づいてくる。

意識が半ば無い夏目は、朦朧とした頭で
声の主を辛うじて認識する。

(…名取さん、来てくれたんだ…。)

一気に安堵し、疲労感が襲う。

そのまま意識を手放し、眠りに落ちた。











温かい手が髪や頬を撫でる感触が
くすぐったくて心地良い。

まどろみから徐々に覚醒して行く世界。

ゆっくりと瞼を開けるとそこには
安堵した表情の名取がいた。

「…名取さ、ん?」

名前を呼べば盛大に
大きな息を吐かれる。

「夏目、本当に心配したよ。
 でも良かった。
 意識が戻って…。」

「本当に良かった…。」
と再び呟き泣きそうな顔で
夏目の髪を何度も撫でた。



そんな名取を見て夏目は、
不謹慎ながらも
つい嬉しいと思ってしまう。

心配してくれる人がいることの喜び。

昔の自分にはいなかった存在。



「すみません、心配掛けて…。
 でも、ありがとうございます。」



ふわりと綺麗に
微笑んで告げる夏目に
名取は思わず華奢な身体を
強く抱き締めた。





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