SS置き場

□メーデー
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2、


先生は何かを恐れているように思った。


その何かは察することが出来る。


でも、あと一歩踏み込めない。


俺に思いを伝えなかったのも、
あえて距離を置いていたのも
全部俺を想ってのことだと知った。



あの夜の何日か後、
先生が出かけている間に、
ヒノエが俺に会いに来てくれて
色々話をしてくれたからだ。

ヒノエが俺たちのことを
真剣に考えてくれていたことに
驚きつつも感謝し
先生の俺への強い想いに
嬉しさが募った。




だからこそ何でも話して欲しい。





心の奥底に沈んでいる想いを、何でも。



いつも何かあったら

先生は俺を助けてくれる。



今度は俺が先生を助けたい。





学校の帰りに七辻屋に寄った。

先生が大好きな饅頭。

出来ることは何でもしたいんだ。



店を出て、来た道を戻ろうとする。


「夏目。」


突然声が掛かって驚く。

振り向くと、人間の姿をした
先生が立っていた。


「先生どうしたんだ?!」


「どうしたもこうしたもない。 
 お前を迎えに行ったのに、
 もう先に帰ったと言われて
 探しに来たんだ。」

心配で仕方ないという
表情で俺を見ていた。

「ごめん、先生。

 先生が昨日、七辻屋の饅頭が
 食べたいって言ってたから、
 早く買いに行きたくて…。」

「そんなことだろうと思ってな、
 ここに来たのが正解だ。

 ありがとう、夏目。」

そう言って優しい眼差しで
俺の頭を撫でる。

「だが、私が迎えに来るまで
 学校にいてほしいな。」


「え?」


「何かあったら心配だ。」


普段の、というか、
以前の先生からは
想像もつかないほどの
本当に心配そうな表情。


先生が危惧していることは
きっと“これ”なんだと思う。

「先生ありがとう、
 でも大丈夫だよ。
 俺はそんなに弱くないし……。
 うん、だから大丈夫だ。」

目一杯の笑顔を乗せて言う。

先生の憂いが少しでも晴れれば。

先生は何とも言えないような
表情で俺を見ていた。

そして少しため息を吐く。

「そうか、そうだな。
 
 お前は夏目レイコの孫だしな。」

「そうだよ、
 それに今までだって
 時々一人で帰ったり
 してたわけだから
 大丈夫だよ。
 
 先生、過保護だな。」


少し冗談めいて話す。


過保護か、
と呟いてそうだな…と苦笑する。


「帰ろう、先生。」


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