SS置き場

□メーデー
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1、





手を繋いだら
嬉しくて温かくなって
泣きそうになった。

握りしめてくれる手の強さに力が湧いた。

だからいつまでも傍にいて欲しい。

死が二人を別つ時まで。






「メーデー」





あの夜から二人は変わった。

想いを伝えあって心が通じて…。

それだけで幸せだった。

愛される奇跡。

いつもと違う優しく
穏やかな空気が二人を包んでいた。

しかし、ふとした拍子に
崩れてしまいそうで怖くなる。



私はなんという弱い心を持っていたのか。



自分の情けなさに嫌気が差す。

この思いを知ってか知らずか、
夏目は私に「大丈夫?」
と心配そうに問う。


その時の、彼の悲しそうな瞳に
胸が詰まって、言葉を返す代わりに
強く抱き締めた。


人は脆い、一生なんて本当に短い生き物。

だからこそ今まで遠ざけてきた。

本当は踏み出さない方が
良かったのだろうか?


“情”が移ったことは
良かったのだろうか?


今日もまた考える。







ひょい





急に身体が宙に浮いた。


思考の淵から掬い上げられる。


優しい温もり。


夏目の手だ。


「先生どうしたんだ?
 いくら呼んでも気付かないから
 思わず抱き上げちゃったよ。」

そう言って私の頭を撫でる。

細くて繊細な手から驚くほどの
温もりを感じて強張った心が
ときほぐれるようだった。


「ちょっと考え事をしていた。」


短い首を少し後ろに向けて夏目を見やる。

心配そうな表情が見える。

居た堪れなくなってまた前を向いた。


「先生、あのさ…。」


「なーに、たいしたことじゃない。
 七辻屋の饅頭が、
 食べたいなーと思ってな。」


今度はにやりと笑って
身体の向きを変えた。


「何だそれ!先生、
 食べてばっかりだと太るぞ。」

「何をーー!私は太らん!
 というかこのプリティなフォルムを
 守る為にも若干の間食は大事なのだ!」


尤もらしく言う先生に
夏目は思わず笑ってしまった。

「あはは、それもそーか!
 まん丸い先生も可愛いかも。」

「な?!
 素直に私が可愛いと認めておるな?!」

「え…。まあ、ね。」

少し恥ずかしそうに笑う夏目が
私たち二人の関係の変化を表している。



良かった笑ってくれた…。




夏目をこれ以上泣かせるわけには
いかないんだ。





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