SS置き場

□夏の終わり
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<夏の終わり>

「じゃーな夏目!」
「明日なー。」
「あぁ明日な!」
友人二人と別れた。

今日は最後の夏休み。
今年の夏もあっという間だった。

夏の夕暮れと夏休み最後とが相まって
何となくもの寂しい気持ちになる。
田んぼのあぜ道をとぼとぼ歩きながら
沈む夕日を見ていた。
幼い頃は一人で見ていた夕日。


「明日から学校かー。」
「遅刻するなよ。」

足元にいつの間にか先生がいた。
突然の登場なのだがそれが日常なので今更何も言わない。

「遅刻しないよ。」
「どーかな?まあ七辻屋の饅頭を買ってくれるなら
 もーにんぐこーるをしてやってもいいぞ?」

「はぁ!?もーにんぐこーるって…。
 ものすごく不安。」

「何を言うか夏目!私の美声で起こしてやるぞ。」

「遠慮しときます。」

「ふん、可愛げのないやつ。」

「可愛げがあっても嫌だろ。」

「そうか?そんなこともないぞ。」

なぜか肯定的な先生に半ば呆れつつ
先ほどから思っていることを言ってみる。

「夏の夕暮れってなんで寂しいのかな?」

「うーん?私は寂しくないぞ。暑い夏が終わってせいせいするわ。」

「そんなもんかなー。」

「そんなもんだ。まあ人間はそう思うんだろうが。」

「…そうだな。」

人と妖は違う。
過ぎ行く日々に名残惜しさなど感じないのかもしれない。
永遠とも呼べる日々を生きる彼らにとっては
ただ過ぎていく一つの季節に過ぎないのだろう。

ふと寂しい風が頬を撫でていった。
先生との日々も今の風と同じなのだろうか。
先生にとっては頬を撫でる風と同じなのだろうか。
歩みが自然と遅くなってしまう。

「おい、はよう帰るぞ。」
いつの間にか先を歩いている先生が振り返り俺を呼ぶ。

「あ、ごめん先生。」
急ぎ足で後を追った。

「なあ、夏目。」

「うん?」

「来年もこの夕日を見るぞ。」

「へ?」

「〜っだからな“来年”もだぞ。」
先生は前を向いたままで表情は窺い知れない。

“来年もこの夕日を一緒に見よう”

先生の言わんとしていることを理解した。
気持ちが一気に軽くなり、自然と穏やかになる瞳。

「そうだね先生。
そしてまた同じことを言うんだろうな〜。」

「物寂しくないわい。私がおおいにからかってやるからな。」

ニヤリと振り向いた顔が可笑しくて笑ってしまう。

一人で見た夕日も今は二人。

来年も、その先も、ずっといつまでも…。

END.




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