SS置き場

□接近
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2.

いつもなら眠たい昼からの授業も
今日ばかりは頭が冴える。

昼休みのあの話題のせいだ。

自分がもし、妖等見る力がなければ、信じないかもしれない。

友人たちのように、笑い事で済ませられる。

他愛のない話としてスルー出来る。

だが自分はそうじゃない。

先立っても、妖に危うく命を取られるところだった。

ニャンコ先生がいてくれなかったらあの時どうなっていたことか…。

そう思うと背筋が寒くなる。

ふとガラス越しに見やった空は
雲一つ無い素晴らしい青空だった。

何事も無いような穏やかな空気。

天高い空に目を向けて一つ溜め息を吐いた。






「は〜い今日はここまで。
委員長号令。」

「はいっ先生。
 起立、礼 。
 ありがとうございました!」

今日も一日が終わった。

否、これから始まるのか。

眠たい授業から解放されて心が軽くなる。

「夏目〜途中まで一緒に帰ろうぜ。」

鞄を手に西村が笑顔を向ける。

「おーそうだな。」

「帰りに何か食うか?」

「おっ、それいいねぇ。」

弾んだ声がした。
北本がいつの間にか来ていた。

「北本参戦かぁ。んじゃ三人で行こうぜ 。」

三人揃って校門に向かう。

下校時間の為に沢山の生徒たちがいた。




「「キャ〜〜!」」




突然の声。

女子生徒の黄色い声が辺りに響いていた。

「何だ、何だ。」

友人二人は興味深げに寄っていく。

「あっ、おい!」

制止の言葉を告げるよりも早く二人とも行ってしまった。

野次馬根性丸出しの友人たち。

いつもながら若干呆れてしまう。

まあ、それぐらい色々とすぐに興味を持てればいいのかもしれないが。

(でも俺は別にどうでもいいんだけど。

何だか嫌な予感がするし…。

二人には悪いがこっそり帰ろうかな。)

そう思いそっとその場を離れようとした。

「夏目!」

その時よく通る澄んだ声が響いた。

それは聞き覚えがある声。

それでも振り向きたくは無くて歩みを止めないでいた。


グイッ!


だが、勢いよく腕を取られて振り向かされてしまう。

「夏目、私から逃げようとするとは…。
 とんだ度胸者だな。」

そう告げる表情は野性味に溢れ、
今でも食らいつきそうな獣の顔。

着流しも相まって更に迫力が増していた。

(…怒ってる?!)

思わず一歩下がってしまうが、掴まれた腕のせいで
さほど距離はひらかない。

「せ、先生。何でここに?!」

周りの視線が突き刺さる。

先生の背後を見やると北本と西村がいた。

「夏目知り合い?」

キラキラと目を輝かせて聞いてくる。

そんな問いを投げかけて欲しくない。

知り合いも何も先生は“ニャンコ先生”だ!!

あのタヌキ猫、ブサイク猫のニャンコ先生だよ。

擬人化するとこんな風に、うっかり騙されてしまいそうなほど、
綺麗でかっこよくなるんだ!!!

心の中では叫びまくる貴志だが、
それを表に発することが出来ない。

出来るわけが無い。

返答に窮してしまう。

このゴシップ大好きな二人をどうにかしてくれ。

ささやかな願いを心の中で呟いた。


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