SS置き場
□願掛け
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1.
「塔子さん何をしてるのですか?」
「あら貴志くん!
これはね“精霊馬”と言って亡くなった
ご先祖様の乗り物なのよ。」
「乗り物?」
「そうよ、ちゃんと家に帰ってきて貰う為に作るの。
だってもうすぐお盆ですもの。」
そう言ってせっせと“乗り物”を作る。
手馴れた手つきできゅうりやナスに“足”を付けて行く。
そうか、もうすぐお盆なのか。
亡くなったご先祖様が帰ってくる。
その季節が今年も来たのだ。
暑い夏の訪問者。
「初めて見ます。何だか可愛いですね。」
ナスをちょんとつつく。
意外にしっかりした足つきで倒れはしなかった。
「一つ貰ってもいいですか?」
「あら気に入ったのね?ふふっ可愛いでしょ。
いいわよあげるわ。
はい、全部出来た!お仏壇に飾ってくるわね。」
笑顔で立ち上がると台所を出て行った。