SS置き場
□偽りの心
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「全く先ほどの女は何です?主様に馴れ馴れしい。」
「まあそう言うな柊、慣れているよ。」
ははっと乾いた笑い声を出す。
「突然仕事が入るとは…。人使いが荒いね。まあいいけど。」
先ほどとは打って変わって厳しい顔つきになる。
表では掛けないフレームレスの眼鏡を掛けた。
裏の仕事が入った証拠だ。
依頼を受け妖怪を退治する。
それは日常に過ぎない。
だが最近考えるんだ。
“妖怪は退治されるべき存在なのかを”
それは彼に会ってからかもしれない。
優しくて温かい、人と妖怪の線引きが出来ない彼に――。
「最近考え事が多いのですか?」
依頼を終えた道すがら、不意に投げかけられた言葉に意識が浮上する。
「え? あ、あぁそうかもな。最近考えるよ。」
ため息とともに零れ落ちる言葉。
「あやつのことですか?」
「柊は良くわかってるんだね。」
「分かりますよ。というかあなたが悩むことなんてそれくらいです。」
「それってひどくないか?」
少し困ったような怒ったような表情。
「花火大会に行ってから少し変ですよ。」
「そうかな。」
「そうですよ。」
「そうかもな。」
それっきり黙ってしまった。