SS置き場

□偽りの心
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「はーい本番入ります!!」

今日も演じる。

自分ではない誰かを。

<偽りの心>

「名取さん今日も素敵な演技でしたねっ!本当に尊敬します。」

「ありがとう。でもまだまだだね。」

少し憂いのある表情は女性の母性本能をくすぐるほど。
そんな彼に見惚れる女性。

「そんなことないですよぉ〜。
 名取さんの演技は人の心を掴むってすごく評判なんですよ!!
 私こそまだまだ未熟者で…。
 あのっ、良ければその演技を教えて頂きたいな、なんて…。
 ダメですよね?!すみませんっ。」

頬を赤く染め上目遣いで見上げる共演者。
ふと表情を柔らかくすると更に赤くなる。

「私にはまだ誰かに教えるほどのものは無いですよ。
 心を掴む演技ですか…。
 それが出来れば苦しむことはないな。

「え!?」

最後の言葉は小さく呟かれ聞こえなかった。
そう言って遠くを見つめる瞳。
なぜこんなに切なくなるほどの色を宿すのか。
女性は堪らず声をかけようとする。

プルルルッ―――

「これは失礼。」
携帯を持って離れてしまう。

 短い用件のようですぐに戻ってきた。
「演技の話が出来ればと思ったのだが、予定が入ってしまいました。
 また時間がある時にでも…。」

申し訳なさそうな表情に女性も思わず一歩引く。

「…いいえっ、気になさらないで下さい。仕方ないですもの。
 今日はお疲れ様でした!また明日もお願いします。」
 
「ええ明日もよろしく。それではお疲れ様!」

琥珀の瞳が柔らかい光を放つ。
手を振り颯爽と去って行くうしろ姿にスタッフを始め皆見惚れてしまう。
女性もしばしその場から動けなかった。

「共演者キラーだよ……。でも時々憂いがあるんだよなー。
 あの名取さんの心を動かすような人がいたら会ってみたいよ。」

それは不意に出た誰かの言葉。
だが誰も答えを持ち合わせてはいなかった。





伝えたいことがあるんだ君に――
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