SS置き場
□不器用な大人
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別に君を傷付けたいわけじゃない。
別に君を怖がらせたいわけじゃない。
別に君を悲しませたいわけじゃない。
だからどうか――。
<不器用な大人>
今日も君はあやかしと関わっていた。
危険な目に遭って欲しくないと思っているのに。
君は相変わらず妖怪贔屓で少し嫉妬する。
私にとっても、君にとっても決して良い存在ではないというのに。
それなのに君は妖怪の為に傷付き、悲しみ、涙を流す。
私は妖怪を憎んでいる。
だが君は妖怪を愛している。
君に愛されるものは幸せだ。
人と妖怪とを完全に線引きする私と、そうじゃない君。
ついキツイことを言ってしまう。
そして傷付けてしまう。
私は俳優である。
故に演じることが出来る。
だが君の前では演じることが出来ない。
気の利いた台詞も言えないなんて。
器用に立ち回って生きてきたつもりなのに、なんとも可笑しなことよ。
君はあやかしをみることが出来る、同じ世界が見える、大切な存在。
だからどうか――
心を見せてくれ。
心に触れさせてくれ。
今度晴れた日に海にでも誘おうか。
そしてゆっくり語ろう。
私のことも君のことも。
fin.
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