□慧様からの頂き物
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「初心なキミ」


「セバスチャン、おいで」


優しく紡がれるその言葉に誘われるように、優しく伸ばされる手に従うように
抱き締められた身体は熱を持ち、どうしても平常を保てない。
そんなセバスチャンの反応は、ヴィンセントにとってはお気に入りらしくそれを見る度嬉しそうに顔を綻ばせている。

膝の上に乗り上げるように向き合う形で抱き締められ、セバスチャンは半分困った様に視線をさまよわせる。



「ん?どうかしたかい?」


「い、いえ…」


「赤くなっているね、照れているのかな」


赤く色付いた頬をそっと撫で、指で唇を霞めるようになぞる
その僅かな刺激にビクリと身体を揺らすものだから、楽しくて仕方がない。
所謂そういう関係というものになってから、決して短い時間ではないというのに…
いつになってもこの初々しい反応は変わらず、つい悪魔なのだという事を忘れてしまう。

だってそうだろう、こんなにも純な悪魔がいたら敵わない


「今日は一緒に寝ようか、セバスチャン」


「えっ!?」


「ん?期待した?」


何もそういう事をする為、という訳ではなかったんだけどね…
そう笑顔で告げられて、セバスチャンは耳まで赤くし俯いてしまった。
からかい過ぎたというのは分かっているが、どうしても止められない。
この反応を見て、二度としないなんて言える人がいるならば見てみたい。



「顔を上げてくれるかい?君の顔が見えない」


「…ぅ」


恥ずかしいとは思いつつも、逆らえないとあっておずおずと顔を上げる。
勿論命令ではなく、恋人としてのお願いだから
目が合ってしまえば、真直ぐな瞳に見つめられて反らしたくても反らせない。
ドクドクと心臓が脈打って、今にも破裂するのではないかと不安になるくらいの鼓動を感じる。



「セバスチャン」


「あ…ヴィンセント、さま…んぅ」


顎を掬われ、啄ばむようなキスをされる。
決して深いものではないというのに、呼吸全てを奪われてしまうように錯覚してしまう。
唇を離されても、目許や頬にまで唇を落とされセバスチャンはどうにかなってしまいそうだった。
漸く離れてもらえ、ヴィンセントの肩口に顔を埋めて寄りかかる。



「本当、セバスチャンはいつまで経っても慣れないね」


「…別に、そういう訳では…貴方だけですから」


ヴィンセントだから、こうなってしまうだけであって決して他の誰か相手にこうなる訳ではない。
小さく呟いたセバスチャンの言葉を聞いて、嬉しいと思う反面


「セバスチャン」


「ヴィンセント様…?」


むにっと頬を軽く抓まれる
相変わらずの笑顔にも関わらず、どこかピリっとした空気を纏っている。
急に何故…と理解できないセバスチャンは、頬を抓まれたまま困惑した表情を浮かべる。


「他の誰もあってはいけない、そうじゃないと私がどうかしてしまいそうだよ」


「あ、申し訳…ございません。そんなつもりじゃ」


「うん、ちゃんとそれは解かっているよ?けどやっぱり私も一人の人間だからね」


ヴィンセントの言葉に、漸く理解できた。
つまりは先程の呟きに対し、嫉妬してくれたという所だ。
こんな反応を示すのはただ一人に対し、そしてそれを見せるのもさせるのもその一人にだけ。
他の誰かに触れられるという事も、触らせるという事もしてはいない。




「っヴィンセント様?」


「んー…やっぱり君は痩せすぎじゃないかな、腰なんて折れそうなくらい細いし」


ぎゅっと抱きしめられたと思ったら、スルリと腰を撫でられる。
触れ方はどうしても情事を思い出してしまいそうなものなのに、当の本人は全くそのつもりがないような会話を続ける。
震えそうになる身体をなんとか抑え、同じように受け答えをするのに必死だというのに…



「セバスチャン」


「ひっ、あ…あの、からかうのはおやめ下さい」


「ああ、つい…可愛らしい反応をしてくれるものだから」


ふっと耳元に息を吹きかけられた、腰も何故か撫でられたままで…
反応が面白いのは理解したが、だからといってずっとこうもからかわれるのも辛い。



「そんな可愛い顔で睨んでも意味はないよ」


「な、かわっ…もう、いいです」


「おや、拗ねたのかな?」


よしよしと言いながら頭を撫でられる、まるで子供扱いだ。


「不服かい?なら大人の扱いをしようか?」


「け、結構ですっ」


残念だとばかりに肩を竦めるヴィンセントに、そんなにもからかい易いのだろうかと軽く落ち込む。



「本当、セバスチャンは変わらないね」
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