かのこ本

□スコール
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「スコール1」

 

「うぉ〜!!
 濡れる濡れる!!
 椿君早く早くっ。」


「分かってるって!!
 っつーか危ねぇから
 急かすなよ。」


突然降ってきた天からの恵みで
大慌てに手近な軒下に
自転車を滑り込ませる。


まるで熱帯地域特有の
スコールのような大粒で
叩きつけるような雨。


2、3メートル先が見えない、
まるで遮断された世界。


ふと隣を見れば、寒いのか
小さくなった彼女の姿が目に入った。


「寒いのか?」


「ちょっと寒い〜。
 突然降ってくるってどゆこと!?
 天気予報ではそんなこと
 言ってなかったのに!!」


天気予報士ちゃんと仕事しろぉ〜!!
と喚く苗床が面白い。



なんてことを言っている場合じゃない。



俺は思わず赤面してしまった。



白いブラウスが雨に濡れて
ぴったりと張り付いている。


うっすら透ける白い肌に
目を奪われてしまった。


(って何考えてるんだ!!
 あぁ押し倒したい。
 いやいや・・・俺たち恋人じゃねえし。
 くそ〜悶々とするっ!!)


腹立ち紛れに勢い良く彼女を抱き込んだ。


「椿君!?大丈夫?
 寒いの!?」


的外れな質問だがあえて訂正する必要はない。


むしろかこつければ良いわけで…。


「あぁそうだ寒いんだよ。
 だからちょっと身体を貸せ。」


「はぁ〜!?
 何その言い方!
 伊達に王様やってないね。
 私のこと平民だからって好き勝手言って。
 ふーんだ!!」


またまた彼の意図に気付かない
かのこは頬を膨らませ怒る。

その様子を間近で見て、笑いとため息が出た。


「まぁそう怒るなよ。
 お前だって寒いんだろう?
 お互い利があるわけだからな。」


敢えて言い聞かせるように言うと
腕の中で「あっ、そか。」と呟くかのこ。


そのまま二人は黙って
ただ降りしきる雨を見つめていた。


雨に濡れた髪から甘い香りが匂い立ち、
椿の理性を揺らして止まない。

腕の中の彼女の確かな存在に胸が高鳴った。


(このままずっと独り占め出来たらいいんだが。)


そう心でそっと呟き、抱き締める力を強めた。





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