かのこ本

□夏の華
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白い肌を極彩色に染め上げては
表情を変えていく。


髪に付けた飾りがシャランと
揺れて彼女を彩る。


大輪の華が夜空に咲いては散り、
そしてまた花開き、
人々の歓声が場を揺らす。


心地好い高揚感が
五感を支配し満たして行く。


そして――


繋いだ手から確かに伝わる熱に、
夏の始まりを感じた俺は
強く手を握った。



「夏の華」




「綺麗だねぇ。」


「あぁ、綺麗だ。
 だけどお前の方が
「はいはいありがとうね。」


「何で最後まで言わせねぇんだ。」


ちょっと拗ねる椿にかのこは苦笑する。


「そんなこっぱずかしいこと
 よく言えるね。
 ていうか椿君の目は相当の節穴だね。」


「節穴?俺は思ったことを
 言っただけだが?」


「……褒めても何も出ないよ?」


呆れ半分、嬉しさ半分と言う様子で
言葉を返す。

褒められるということを、
素直に受け取れない性格だが、
椿のお陰で最近だいぶと慣れたかのこ。

だがやはり照れくさい。

頬を赤く染めるのは、決して花火の色が
映りこんでいるだけではないだろう。

そんな彼女の照れ隠しが
嬉しくて愛しくて堪らない椿は
自然と表情が柔らかくなる。


素直じゃないのも、
かのこらしくて良いと
心でそっと思った。



「別になにも要らない、
 俺が欲しかったものは
 もう手に入ったから。」


「欲しかったもの?」


きょとんとした目をかのこが向ければ、
ははっと笑いぽんぽんと頭を叩く。


そして目線を合わせる為に
腰を折って彼女の瞳を覗き込んだ。



「苗床かのこだよ。」



その時、一際大きな大輪の華が
夜空を彩った。


大気を震わす音に負けない彼の言葉に
大きな目を更に開いて思わず彼を見る。


だが、花火にも負けない程
眩しく微笑んで言う椿に
かのこは目が眩むようで咄嗟に目を瞑った。

全身の血が沸騰する感覚に翻弄され
身体を傾けた。

その身体を優しく抱き止められる。

上から笑う声が降ってきて、
額に優しい温もりを感じた。

そして鼓動が混ざり合うに程に
強く抱き締められる。

目を閉じたまま熱い胸に委ねる感情。

それは煌びやかに心を彩り満ちる。



夏の始まり。



恋の始まり。









END

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