かのこ本

□夏の魔物
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大学生設定な椿かのw
リクエスト感謝です♪

「夏の魔物:前編」








「椿君こっち来なよ〜!! 」


太陽にも負けないぐらいの
眩しい笑顔で笑いかける彼女に
俺は再び恋に落ちた。



「夏の魔物 :前編」



待ちに待った夏休みが始まった。

今までこんなに待ち焦がれた
夏休みなんて無かったと思う。

その理由は明白ではある。

何故なら最愛の彼女と
二人きりのお泊まりデートが
待っていたからだ。

そして今回の最大の目標は
彼女とキスをすること・・・。

いつも未遂で終わっていたので
いい加減成功させたいものだと
心の底から誓っている椿だった。










長年の片想いを経て、ようやく思いを
通わせたのが、高校の卒業式の日だった。

同じ大学に進むことは決まっていたのだが、
いい加減けじめを付けたかった俺は
一世一代の大告白をした。


天と地が引っくり返ったように驚いた
彼女の顔は、今でも鮮明に思い出せる。

あの時本当に告白をして
良かったとしみじみ思う。




今は大学一回生。


自由奔放も許される。

アルバイトにも行って
旅費を稼いだり・・・。

もちろん二人分。

と言うか、ここ暫く俺は
一生分ぐらいに豆だったと思う。

学校にアルバイト、
車の免許を取って、
かのとの時間も作って…。

やれば出来る。

全てはきっとこの日の為だったと思う。

彼女を助手席に乗せてデートは
男なら一度は夢見る訳で…。

かののことが好きになるまで
考えたこともなかったのだが、
俺もまさかのその一人だったとは…。

恋をすると人間ここまで
変わるんだなってつくづく思う。

目まぐるしく変わる
考えや感情に戸惑いながらも、
日常を楽しんでいる。












「すごいよここ、
 カニがいっぱいいる!」


食べれたらいいのに、
と足元にいる小さなカニの群れを
眺めて、無邪気に笑って
言うかのが可愛い。


と言うか眩しい。


いや、ひどく眩しい。


そして目のやり場に困る。



「椿、やっぱり海でデートがいいんじゃね?
 水着を着た彼女とか超良いと思う!!!」



そう力説していた腐れ縁の
友人の言葉を思い出した。

夏草の煩悩を実践して良かったと思う。


色白の肌に良く合う
赤いボーダーのビキニが
似合っている。

かのは華奢で小さくて
本当に可愛いと思う。

抱き締めたら、すっぽり収まる身体とか
クリッとした大きな瞳とか…。

まぁ簡単に言えばベタ惚れだな。

気付いて自分に苦笑してしまう。



「椿君どしたのさ? 」



色々考えていたので気付かなかった。

下から見上げて、不思議そうに
俺を見ているかのがいた。

小首を傾げてちょっと笑い
俺を見ている姿が可愛くて、
抱き締めたい衝動に駆られる。

抱き締めるなんて生ぬるい、
押し倒したい!!と本気で思ったが
白昼堂々とするのは
・・・さすがに気が引ける。

というかまだ、キスすら
していないというのに・・・。

海水浴客で賑わう
この海岸ではどうかと思うし・・・。

グッと拳を握って、
理性を総動員させて
何とか耐える椿。

まさかそんなことを考えているとは、
思いも寄らないかのこは
心配そうに椿の肩に手を触れた。



「椿君大丈夫!?
 眉間に皺が寄ってるよ。
 暑さにやられた?
 日陰に行こう。 」



何も応える暇もなく、
今度は椿の腕を引いて、
近くの木陰に腰を下ろさせ、
冷たい物を買ってくるね!
と足早に行ってしまった。

その後ろ姿を眺めて項垂れる椿。



何て可愛い奴!!



緩む頬を止めることが出来ない椿は
両手で顔を覆った。











(椿君大丈夫かな??)



椿の心かのこ知らず・・・。


てっきり暑さにやられていると
思い込んでいるかのこは
足早に自動販売機に
向かっていた。

ようやく着いてスポーツドンリンクを
購入し、椿の元に戻ろうとした時に
声を掛けられた。



「君可愛いね、写真撮らせてくれない?」


「・・・はい?」


突然言われて柄にも無く
固まってしまうかのこ。

声の主をまじまじと見れば、
一眼レフカメラを首からぶら下げた
いかにも秋葉系のオタクが
鼻息荒くかのこを見ていた。


(何こいつキモッ!!)


心で悪態を吐くも
一応普通の対応をする。



「他当たってもらえませんか?
 私を撮っても心霊写真っぽくなるんで。
 それに待たせてる人がいるので
 失礼します。」



グイッ



踵を返し足早に立ち去ろうとする
かのこの腕を突然掴んで
引き寄せるオタク。


「ちょっと!何すんのさ!!」


間近で見るとキモさ倍増で
掴まれた腕から鳥肌が全身に立った。


「いいじゃん別に。 
 減るもんじゃないしさー。
 ボク眼鏡っ子大好きなんだよね。
 だから超好み!!」


ぺらぺらと喋るオタクに呆れて仕方が無い。


っていうかお前の好みなんぞ知るか!!


アホらしさと怒りで何とか保っていた
平静を取っ払ったかのこ。

お決まりの台詞が思わずこぼれ出た。


「ばっかじゃなかろうか!!
 この二次元オタクがっ!!
 三次元に相手してもらえないからって
 何で私んとこに来るのさ!!
 夢でも永遠に見てなよ
 (放送禁止用語により自主規制)男!!!」


睨み付けて一気に言うと、暫し呆然とし、
やがて言われたことを理解したオタクは
怒りに顔を真っ赤にして震えだした。


「君さ言っていいことと
 悪いことがあるよね?!
 そんなことボクに言っていいわけ?!
 そんな子にはおしおきだね!!」


訳の分からない持論を展開し
掴んだ腕を更に強く引いて
近くの茂みにかのこを引き倒した。



うわっ?!



ドンッ



突然の強い力で引かれ、
バランスを崩し
その場で尻餅をついてしまい
手に持っていたペットボトルも
落としてしまった。

そして見上げればギラギラとした
眼差しで近づいてくるオタク。

こんな時なのに周りを見ても誰もおらず
助けを呼べる人がいない。



暑さで困っている椿君の為にも
早く戻りたいのにっ!!


こうなったら命を懸けてこいつを
撃退するしかない!!



「ボクを怒らせた君が悪いんだからね。」


ねっとりとした汗ばんだ顔が近づいてくる。


顔面に蹴りを入れてやる!!!



かのこが覚悟を決めて
足を振り上げようと足を上げた瞬間
難なく足首を掴まれてしまった。


なに?!見切られた?!


「おっと〜?そう来ると思ってましたーw
 往生際が悪いな〜いいじゃん別に〜。」


ケラケラと笑って言うオタクに心底腹が立つ。

だがこの状況も大概だ。

いつもの闘争心が漲るも、
さすがに一人では無理だと思った。



「キモイ変態!!いい加減離せよっ!!!
 誰か――っ?!」



叫んで助けを呼ぼうとした時に
口を押さえられ完全に押し倒されてしまった。

砂の感触を背中に感じる。




ヤバイ、この状況は大変危険だよ?!

オタクだから油断してたんだろうか・・・。

オタク恐るべし!!

なんて呑気なことを思っている場合ではない。

急激に恐怖が襲ってきて
背筋に冷たいものが走る。
 
力の限りもがくも上手くいかない。

その様子を愉しそうに見て
かのこの清らかな白い素肌に
手を触れて来るオタク。



「もしかして触られるの初めて??
 初々しいねー。」



鼻息荒く迫るオタクに鳥肌が立って仕方ない。


いやーーーーーーーーーーーーーー!!
キモイ!無理!有り得ない!!
こいつ逝ってこい!!!!

胸中で罵詈雑言の嵐。

そしてあまりの気持ち悪さで
吐き気がしてきてしまった。

乙女の純潔がーー!!!!!

声にならない悲鳴を上げて叫ぶ。

急激に頭が混乱し思考が
低下してしまうかのこ。

命だけでも取られなければまだマシか・・・。


(・・・椿君ごめん・・・。)



心で謝るかのこは目を閉じる。

観念したようなかのこの姿に
口角を上げて嫌な笑いを向けた。


ヒュッ



突然風が横切る音が間近にした。

次にゴッという骨が軋むような音。


「ぐえっ!!」


そしてカエルが鳴いたような情けない声。


それからかのこは掬い上げられるような
浮遊感を感じた。

ちゅっと音を立てて、額に温もりが
降ってきてスッと離れていく。

かのこは恐る恐る目を開けた。






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