かのこ本

□酒は飲んでも飲まれるな
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カリカリ様への捧げものですw


「酒は飲んでも飲まれるな:前編」



「椿君大丈夫!? 」


「おいっ
 お前珍しく酔っ払ってんじゃね〜か! 」


二人揃って出た言葉に
「酔っ払ってなんかね〜よ!」
と怒って返すものの
説得力が無いのは
赤い顔とその体勢にある。

隣に座るかのこの肩を
抱き込んで離さない椿。

あれ飲むかこれ飲むかと、
かのこに詰め寄り、挙げ句
トレードマークの眼鏡も外し弄ぶ。


完全に絡み酒。


隣で、はぁと溜め息を吐いた
かのこだった。



*





――――大学生になり
かのこと椿は同じ大学の
教育学部に進んだ。

夏草は高校卒業後就職し社会人に、
桃香は製菓の専門学校に通っている。

それぞれ日常に追われながらも
時間を見つけては集まって楽しんでいた

今日も恒例の飲み会で
いつも通り、の筈だったのだが…。


最初椿は不機嫌だった。


それとは対照的に、
かのこは桃香と会えることを
とても楽しみにしていたようで
椿と夏草そっちのけで女子同士
会話に花を咲かせていたのだ。


男二人何だか蚊帳の外
と言った様子で
心で泣くのはいつものこと。

鉄壁に守られた女子の空間に
割り入れずにこっそり
椿と夏草は溜め息を吐く。


夏草が桃香を好きなことは
中学時代から周知の事実だが
最近椿がかのこのことを
好きだと夏草はようやく気が付いた。

なので、報われない男子同士
最近馬が合う。


二人の世界の傍らで
ビールとチューハイ片手に
ぼそぼそと語り合うイケメン二人。

何だか物憂げな表情で
語り合う二人に、女性人の瞳は
釘付けになるが、
そんなことには目もくれない。



「何かいつもだな・・・。
 いい加減どうにかしねぇと。」


「うんうんだよな。
 っつーかさ椿って意外と
 恋愛に対して奥手なんだな。」


真面目な顔で言う夏草に
ジト目を向ける椿。

何か悪いことを言ってしまったのかと
少し背筋が寒くなった夏草は
両手を合わせ素直に謝った。


「すまん椿!」


「ったく別にいいけどな。
 奥手も何にもねえんだよ。
 だってこいつだから。」


ポンッと頭に手を置き髪を弄ぶ。

桃香との楽しい一時を
邪魔されたかのこは
怒った顔を椿に向けた。


「ちょっと何すんのさっ!
 人が楽しく桃ちゃんと
 話してるって言うのにさ!!」


「桃ちゃんと、ねぇ・・・。」


不機嫌な顔を隠さずに言う椿に
「何で不機嫌になってんの?!」
と返すかのこ。


不穏な空気が流れる。


「まぁまぁかのちゃん怒らなくても…。」


宥める桃香だが、
ムッと頬を膨らませたままのかのこ。

そんな彼女の柔らかな
頬っぺたをつつく椿。


「怒んなって…っていうかさ
 二人盛り上がり過ぎたろうが。
 俺たちいるんだけど・・・。」


「そうだぜ!俺たちも入れてくれよっ。」


半泣き状態の夏草と
不機嫌そうな椿を見て
仕方ないなぁと二人は笑って返した。



*



夏草の仕事が終わってからの
飲み会だったのでもう深夜を回っていた。

かのこはお酒がそこまで強い方ではないので
多少ほろ酔いでも仕方ないのだが…。

ヘラヘラと笑いながら
かのこに絡む椿は異様だった。




そして冒頭の二人の言葉に戻るのだ。


「椿君大丈夫!?」


「おいっ
 お前珍しく酔っ払ってんじゃね〜か! 」


「酔っ払ってね〜よ
 なぁ苗床? 」

彼女の細い肩を抱き込んで
覗き込むように顔を近付け
詰め寄る椿に呆れ気味な表情向け
ペチッとおでこを叩いた。

「痛っ!」と顔をしかめる彼に
かのこは追い打ちを掛ける。


「完全に酔ってんでしょうが!!
 椿君ともあろう者がだらしない!!
 水飲んでさっ早く!」


冷たい水を差し出すと渋々飲み干す。

そしてかのこの肩にもたれ掛かり
うとうとし始めた。


「って寝るなー!」


肩を揺すってみるものの
完全に夢の世界にいるようで
反応が無い。

本当に珍しいと言うか
初めて見る椿の酔う姿に
一同は呆気にとられてしまう。

椿の横で懸命に起こそうとする
かのこの姿を見て
夏草と桃香はこっそり
心の中で呟いた。


(早く付き合っちゃえばいいのに・・・。)


いい加減この二人には
やきもきさせられている。

椿の態度は完全にかのこにベタ惚れだし
かのこも満更でもない様子なのは
ここ数年見てきて感じ取っている。

だが、かのこの「100パー有り得ない!」
と言う思い込みと、元来の鈍さの所為で
あえて自分の心に鍵を掛けているように思う。

本当にあと一押しと言った所だが
椿が意外とヘタレで上手くいかない。


(あぁ本当に早く
 付き合っちゃえばいいのに…。)


人のことを言えない二人から
心の中でそんなことを
思われているとは露知らず。

凭れ掛かって離れない椿に
かのこはまた溜め息を吐いて諦めた。


*


「かのちゃん大丈夫!?」


「苗床一人で帰れるか?」


居酒屋の前の道端で
心配そうな声をかのこに掛ける二人。

ヒラヒラと手を振り
苦笑気味に答えた。


「大丈夫、大丈夫・・・。
 本当に世話がかかるっての!!
 でも家が一番近いのはうちん家だしね。
 それに、何か離れてくれないし・・・。」


相変わらず抱きついたまま離れない椿。

何とか会計を済ませ、
下まで連れて来たものの
引き剥がそうとすると
「嫌だ。」と言って離れなかった。

駄々を捏ねる椿も見たことが無くて
何となく引き下がってしまって今に至る。


「本当に大丈夫?」


「大丈夫だって!」


「苗床がそこまで言うなら
 俺たちも帰るな。」


「うん、今日はありがとう!
 また会おうね。」


朗らかに笑って言うかのこに手を振り
帰って行く背中を見送った。


「大丈夫かな?」


「大丈夫だと思うよ。
 何か進展があるかもしれないし!」


天使の微笑みで思いがけないこと
を言う桃香に夏草は驚き、納得する。


「ああ!そうだよな?!
 このまま上手く付き合って
 くれるといいのにな。」


「そうだね。大好きな二人には
 幸せになって貰いたいな。」


柔らかな表情で語る桃香に
力強く頷いて返す。


そして・・・

(俺にも早く春が来て欲しい!!!!
 って今夏だけどさ・・・。)

今日も心で涙を流した夏草だった。





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