かのこ本

□sweet morning
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まどろみから目覚めると
隣には愛しい人の寝顔。

まさか自分がこんな幸せを
手に入れることになるとは
夢にも思っていなかった。

嬉しくてつい笑みが零れる。


(朝食の準備でもしようかな…。)



絡みついた腕を慎重に外し、
起こさぬようにそっとベッドから
降りようとするかのこは
思いっきり引き倒された。



「うわっ!!!」



背中からボスンという音を立てて落ちる。

突然のことにびっくりしたかのこ。

抗議の声を上げようと、
上体を起こした時に
今度は引っ張られ
そのまま腕の中に収められた。

彼に抱き締められることに
未だに慣れないかのこは
照れくささを隠すように
わざと大きな声を出す。


「 ちょ、初流君!!
 危ないよっ!!!!」



ジタバタともがいて文句を言うも
狸寝入りなのか、本気で眠いのか、
初流は何も言わずに
ギュッと抱き締める力を込めるだけ。

かのこは仕方なく諦め、
身体の力を抜き初流に身を委ねる。

トクン トクン
と規則正しい心音が聞こえてきて
その穏やかさがまた
眠りを誘うようだった。

うつらうつらし始めた時に
ようやく掛かる言葉。



「かのおはよう。」



眠たい目を少しこすり
顔を上げると穏やかな表情の初流がいた。



「おはよう初流くん。
 ってさっきは危なかったんですけど。」



ジト目を向けるも、
彼は何とも思っていないようで
ふっ、と笑われる。


「笑い事じゃ―
「腕の中の温もりが急に消えたら寂しいだろ?
 だから引き戻しただけだ。
 ていうか俺より先に起きてどっか行くなよ。」

 
言い掛けた言葉に被さる、
初流の信じられない我侭に
かのこは唖然としてしまう。


「何それ!!!
 無理でしょそんなの!!!」


思いっきり否定すると
一気に拗ねたような顔になる。

普段の彼ならこんな表情はしないが
かのこの前だとつい出してしまう。



「何もそんな思いっきり否定
 しなくてもいいだろう?
 冷たい奴……。」



希少価値が高い程珍しい
むくれた彼を見るなんて――
かのこは何だか笑ってしまった。


「笑うことじゃないだろう。」


「いや、笑うべきとこだよ。」



未だにブスッとした表情を
変えない初流に、かのこは笑顔のまま
触れるだけの優しいキスを頬に送った。

ごくごくたまにかのこから送られるキスに
初流は凄まじく弱い。

多分一生これには勝てない。

照れくさそうに離れていくかのこの
あまりの可愛さに、
初流の仏頂面も長くは続かなかった。



「ふん、仕方ないな。
 今回は多めに見てやろう。」



あえて上から目線で言う彼が可笑しい。



「分かればいいよ。
 ていうか大学一限目からでしょ?
 こんな呑気なことしてる場合じゃないよ?!」



時計を見ると、
そろそろ急がないと
いけない時間になってきていた。 

焦るかのことは対照的に動かない初流。



「もーーっ! 遅れるって!!んっ!」



言葉を遮る温もりに驚く。

そしてゆっくり離れていく初流。



「お前があんな可愛いことするから悪い。
 別に遅れても構わないしな。」



にやりと口角を上げる彼に、
冷や汗がたらりと背中を伝う感覚が過ぎった。



「駄目だよ!!!学生の本分は勉強でしょ!
 学校行けなきゃ!! 」



必死に言うかのこに、初流の余裕の笑み。



「学ぶことが大切なんだろ??
 だったらお前を教えてくれよ。」


吐息がかかる近さで言われ粟立つ身体。


恥ずかしくて一気に熱が上がる。



「っなんてこと言うの初流君!!
 ってどこ触ってるのーーー!!!」



叫び虚しく、
我侭な王様に翻弄される哀れな農民。

二度と自分からキスするかっ!
と心で誓ったかのこだった。



END

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