かのこ本

□It's too late for regrets
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さめ様へw捧げものです♪
It's too late for regrets=後悔先に立たず



「It's too late for regrets」前編


「なっ、
 苗床さぁーーーん!!!
 大変ですぅ!!!!!」

折角の可愛い顔が台無しなほど
鬼の形相で廊下を駆けて来る彼女に
一歩引いてしまうかのこ。

今から始まる夏祭りの最終準備で
とても忙しいというのに何だろうか?

模擬店に使う資材を
下ろそうとしている時に呼び止められた。

クラスメイトも何事かと
遠巻きに見守っている。

息も絶え絶えな様子で
かのこの前に止まると
捲くし立てるように喋りだす。


「あああああーーーー苗床さんっ!!
 大変です大変ですっ!!!!!」

「いや、何が大変なのさ夢見さん。
 てか大丈夫??」

大丈夫じゃないのはいつも通りなのだが
尋常ではないようなので
一応尋ねてあげた方が良いかと
かのこは思った。

「そんな悠長なこと言っている
 場合ではないですよっ!!」

「悠長って・・・。 
 落ち着きなよ。」

泣き喚く勢いで迫ってくる夢見を
宥めようととりあえず手近にあった
お茶を差し出し飲ませる。


ゴクゴクッといい音がして
一気に飲み干すと
はあーーーーーーーーーーっと
盛大に溜息を吐き、
少し落ち着きを取り戻した夢見は
ようやく本題を切り出した。




「すみません、取り乱しまして・・・。
 でも取り乱さずには
 いられなかったんです!!」

「いいけどさ、今忙しいんだよね。
 何かあった??」

「はいっ!!!
 あの聖女の美少女が、
 椿様とご一緒だったんです!!!」



“聖女の美少女”



聖女の美少女といえば


――桃ちゃんが来てくれた?!



かのこは一気にテンションが上がり
パアッと瞳を輝かせる。

それとは対照的に夢見は泣きそうな顔で
何やら喚いている。

「ああーー椿様のバカッ!!
 苗床さんという人がいながら
 あの子にも手を出すなんてっ!!!
 いくら椿様でもやっていいことと
 悪いことがあります!!!!!」

うわーんと泣き崩れる夢見にかのこは
胡乱な目を向け、はあと溜息を吐いた。

「あのさ・・・。
 椿君と桃ちゃんは付き合ってない
 ――って人の話を聞けーーー!!!」

かのこが話している間も、
念仏のようにいつもの妄想を語り続け、
全く人の話を聞いていない。

埒が明かないと判断したかのこは
その場に夢見を残し、
一番会いたい大親友の元に駆けて行った。













「ちょっと早すぎたかな?」

「お前早すぎるだろ。
 まだ始まるまで一時間あるし。
 ってよく入れたな・・・。」

「だってかのちゃんに会えると思ったら
 早く来たくて!!ウロウロしてたら
 入っていいよって
 親切な人が入れてくれたの。」

ニコニコと天使の笑みで笑う好敵手に
椿は小さく息を吐いた。

 今日は宝校の一学期最大のイベント
「宝校夏祭り」が開催される日だ。

憂鬱な期末テストの後、
夏休み前のご褒美として
毎年慣例となっているもので
毎回一年生が模擬店を
出すことになっている。

上級生たちとの親睦を
深める為などと言われているが…。

1年G組は喫茶をすることになっていて
椿も朝から準備に追われている状態だ。

中庭でお店を出す用意をしていると
見慣れた顔があり、仕方なしに声をかけ
今に至る。

「九時から始まるってのに・・・。
 まあ仕方ないけど。」
 
「ごめんね、忙しい時に。
  邪魔にならないようにしてるから。」

しょんぼりする桃香に気にするな、
とだけ声を掛ける。

「うん、ありがとう。」


困ったような微笑みを椿に向ける桃香に
周りの視線は釘付けだった。



「あの子!!
 この前、門のとこにいた子だよね?!」

「そうそう!!!
 聖女の子でしょ?!」

「椿君の彼女って本当なのかなっ?!」

「いやーーメンクイ過ぎるっ!!!!
 やっぱり男前は美少女がお好きなのねーー!!!」

「悔しい!けどお似合い過ぎる!!!」

「やっぱイケメンには美少女か・・・。
 俺たちの夏って・・・。」



遠巻きに観察される二人。



あちこちで口々に
噂されているのが何となく分かる。

よくもまあ人のネタで色々と・・・。


胸中で舌打ちする椿。

だが、このお陰で苗床への嫌がらせが
少しでも減ると思ったら――
ここは面倒だが乗り切るしかないな・・・。

精神力が強く、
別段本人は気にしていないようだが
好きな子を苛められて
何とも思わない訳がない。

というかそいつら全員見つけ出して
再起不能にしてやってもいいと思う。

心の中でこっそり物騒なことを
考えてしまう自分は、
相当苗床のことが好きなんだな。

改めて椿は実感する。

かのこのことを考えるだけで
気分は晴れるが
今の状況はやはり好ましくない。



ああ!!
苗床が好きなのに何で花井と!!!!
何でだよっ!!!!



くっそー!!!!!




急に腹立たしくなってくる。

だからってここで喚いても意味がないし
不様すぎる!!

ぐっと拳を握り何とか平静を保つ椿。

そんな心の葛藤を知らないの桃香は
かのちゃんまだかな?と
呑気に辺りを見回している。



こいつ!この呑気女がっ!!!




これ以上桃香と一緒にいることに
耐えられない椿は、適当にあしらって
その場を離れようとしたとき
一際明るい声が背中に掛かった。

振り向くと、満面の笑みを浮かべた
かのこの女の子らしい可愛い表情が見える。



「桃ちゃーーーん!!!!!
 来てくれたのーーー?
 嬉しいっ!!」



持っていた荷物をその場に置き
隣の椿には目もくれず
勢いよく駆けて
がばっと桃香に抱き付いた。

抱きついたかのこを
桃香も優しく抱き締め返すと、
かのこの頬は緩みっぱなしになる。

それに追い討ちをかけるかのごとく
桃香の必殺天使スマイルが炸裂する。

「かのちゃん!!!!
 かのちゃんに会いたくて
 早く来ちゃった。
 忙しいのにごめんね。」

申し訳なさそうな表情をする桃香に
勢いよく首を振ってかのこは全否定した。


「そんなことないよっ!!!!!
 桃ちゃんが来てくれただけで嬉しい!!!
 一緒に今日は楽しもうね、
 桃ちゃん!!!!」


うるうると瞳を輝かせ、
まるで子犬のようだ。

しっぽを振っている姿が
目に見えるようで
椿は若干眩暈がした。


何だこれ・・・。


自分への態度の差がありすぎて、
可愛さ余って憎さ百倍という言葉を
思い出してしまった椿。

どいつもこいつも本当にっ!!!

我慢の限界に達した椿は声を
張り上げてしまう。


「苗床!!お前早く準備しろっ!!!」


かのこの腕を勢いよく掴み
桃香から引き離す。 

その声と、椿の不機嫌度マックスの態度は
お祭り気分も吹き飛ばす破壊力があった。

かのこも思わずビクッとしてしまう。

捕まれた腕の痛さに、
訳も分からず動揺してしまう。


(ヒッ!何か凄まじく機嫌が悪い!!!!!
 何で?!どして?!)


頭の中には疑問符だらけ。

だが威圧的に睨む椿に何も言えず、
準備してくる、と小さく告げ
桃香に手を振り最後の準備に
取り掛かりに行った。

その後ろ姿を、
苦虫を潰したような顔で見送る椿に
桃香は声を掛ける。


「椿君心狭すぎるよ。
 かのちゃんが可愛そう。
 そんなことばっかり言ってると
 かのちゃん、他の人に
 取られちゃうかもしれないね。」


いつもの柔和な表情で
サラリと辛辣なことを言われ
咄嗟に言い返せない椿。



自分らしくない、本当に・・・。


あいつに当たるなんて・・・。


掴んだ腕の温もりを残した手を見やり
はあ、と今日何度目になるか
分からない溜息を吐いて項垂れた。










何かすごく機嫌が悪かったな・・・。

何でだろう?

かのこの気持ちは一気に沈む。

時々彼をとても怒らせてしまう自分がいる。

何で?と聞いても答えてはくれない。

折角のお祭りが台無しだな・・・。


かのこは浮かない表情で黙々と
椅子を並べながら考える。

そんなかのこに掛けられる声。

「あれはダメでしょ?」

顔を上げると同じクラスのギャル三人組の姿。

「は?」

何のことかと問えば信じられない!!
という顔で見返される。

「あんたバカじゃない?
 せっかくのいい雰囲気をぶち壊して
 有り得ないっての!!!」

「そうよ! 空気読みなさいよっ!!」

すごい剣幕で言われ
柄にもなくたじろくかのこ。


周囲も同じ目で見ていて、
何だか凄まじく居心地が悪い。

「空気の読めない苗床さんに教えてあげる。
 二人はカップルなんでしょ?
 せっかくのいい雰囲気を台無しにされたら
 誰だって怒るわよね、ねっ?」

うんうんと周りも頷く。

そんな同意しなくても・・・。

二人は恋人同士だと
勘違いされているということだろうか?

そんなことはいけない!

桃ちゃんに嫌がらせでもされたら
たまったもんじゃない。

勘違いされたままで良いと何故か椿は言っていたが
そんなことを良しとしてたまるものか・・・。

大親友の桃香の身を案じて
本当のことを言うかのこ。


「二人は付き合ってないんだけど。
 それは勘違いだから。」

「はあーー??あんたバカじゃないの?!
 どう見ても二人は付き合ってるでしょ?」

「いや、でも椿君は本当にそんなこと――
「いちいち言う訳ないじゃんね?
 苗床さんに言うことじゃないでしょ。
 てかさ、そんなに二人が付き合ってるって
 認めたくないなんてさ、
 本当に二人の友達?
 しかも友達だったら何で知らないわけ??
 あの二人から聞かされてないだけよね?
 引き立て要員の分際で、
 二人の間に割って入ろうとする
 なんて最悪。
 邪魔者扱いされる前にどっか行けば?」


 
吐き捨てられるように言われると
さっさと各自準備をし始める。

考えもしない内容を峻烈に言われ
ただただ驚くばかり。

かのこは暫くその場を動けなかった。









「よお苗床!!遅くなって悪い!!!
 午前中急に用事が入ってさーー!
 ってどうした?!苗床!?」


凄まじく負のオーラを纏った彼女に
戸惑う夏草。

掛ける言葉を見失ってしまうほどに
意気消沈したかのこの姿があった。





あの後、上の空で午前中を過ごしていた。

何となく気まずくて椿の傍には寄れず
一人黙々と仕事に励んでいた。

せめて桃香の傍に行こうとしても
何故か周りに阻まれ、声さえ掛けられない。

桃香も辛そうな瞳をかのこに向けていた。

それがかのこにとって
唯一の救いではあったのだが・・・。




椿君は本当に桃ちゃんが
好きじゃないのかな?

人の心は変わるものだ。

でも桃ちゃんは、椿君より
好きな人が出来たって言ってた・・・。

だとしたら椿君の片思い?!

そんなまさか・・・。

でも辻褄は合うかも・・・。



周りを勘違いさせてもいいってことは
外堀を埋めるってことですかい?!



自分が思いついた考えに固まってしまう。

今まで傍観してきて、
人の考えとかは誰よりも
把握していた筈なのに・・・。

すっかり鈍ってしまったんだろうか??

椿くんの友達でいたつもりだけど
向こうはそう思ってないかも・・・・。

そんな考えを延々と繰り返して今に至る。


沈黙を守るかのこに、
出して貰ったジュースを片手に
何も言えない夏草。

このままではいけないと
かのこ重い口を開く。

「大丈夫、元気だよ?
 もーそんな顔しないでよっ!!」

ようやく出た言葉も嘘っぽくて
殻元気な態度のかのこに
夏草の心配は募る。

「苗床らしくないな。
 俺でも良ければ相談に乗るけど!」

優しく掛けられた言葉にかのこの心は
少し癒される。

 「ありがとね、夏草君は優しいね。」

力無く笑うかのこに、
何を言えばいいのか分からない夏草は
肩をポンと叩いた。

その温もりに少し力を貰えた気がした。

何も知らない夏草は辺りを
キョロキョロ見回し
友人の名前を出す。

「そういえば花井と椿は?」

ビクッと僅かに身体を震わせ
途端に暗い表情に戻るかのこ。

その変わりようにうろたえてしまう。

夏草はすまん!!!と咄嗟に謝った。
  
「いや、夏草君が謝ることじゃないよ・・・。
 悪いのは私だから。
 せっかくのお祭りなのに
 台無しだよね、本当にごめん。」

苗床が謝るなんて相当何か
大変なことがあったのだろうか?

というかこんな時に
あの二人はどこにいるんだ??

携帯を出して連絡を取ろうとした時に
手で遮られる。


「二人はイベントの真っ最中
 だから出られないと思うよ?」


かのこから言われた内容に
全くピンッと来ない夏草。

そういえばもぬけの殻のような中庭。



きゃーーーーーーーーーーーっ!!!!!



「何だ?!」

突然グラウンドの方で上がった、
大気を揺らす大歓声に何事かと耳を向ける。


そんな夏草にかのこは仕方なく
もう一度伝える。


「午後からのイベントなの。」


「はあ?」


やはり夏草は首を傾げるしかなかった。








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