かのこ本

□call me name
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「call me name」


「かの。」

少し距離があるが、
よく通る声で名前を呼ぶと
口をあんぐりと開けて
固まっている姿が目に入った。

身動ぎせずに
立ち尽くしている苗床が
面白くてつい笑ってしまう。

学校帰りのいつもの道。

少し先を歩く彼女を呼ぶ椿。

やがて彼女の目の前に立ち、
視線を合わせるように腰を折った。

そしてまた名前を呼ぶ。


「かの。 聞こえてるよな?」


手をヒラヒラとさせるが
未だに放心状態と言った彼女。

相当な衝撃を彼女に与えたようで
椿は心の中でガッツポーズをする。

今まで、椿の方が
翻弄されてきたので
ささやかな仕返しを
いつも考えてしまう。

嬉しくて顔には出さないが、
浮かれてしまう自分がいた。


「…椿…くん!?
 …名前、呼んだ!?」

ようやく息を吹き返した彼女は
絶え絶えながらも言葉を出す。

その姿に嗜虐心が
更に煽られて
もっとからかいたくなる。

腕を引いて抱き寄せ耳元で囁く。

「かの。
 
 初流って呼べよ。 」

ピクッと肩を震わせ、
あり得ない!!と
瞳が椿に訴えていた。

「無理!」

「何で?」

「無理だって!!」

本気に涙目になって
拒絶されるのも
何だか嫌な気分だが、
俺だけがこいつを
今は翻弄出来ているから
良しとしよう…。

――そんなことを椿が
考えているとは露知らず…。

「呼ばないとここで
 キスするけどいいのか?」

形の良い眉を片方上げ
少しからかうような眼差しで
かのこに詰め寄る。

ベタに眼鏡がずり落ちそうなほど
ずっこけてくれる苗床が可愛い。

ニヤニヤと頬が緩むのを
止めることが出来ない。

「なっ、何ですと!?
 椿君最近私に対する扱いが
 ひどくない?!」

「そうか?
 俺的には愛情たっぷり
 だと思うけどな。」

シレッと言ってのけると
またあんぐりと呆れたように
口を開けた彼女の姿があった。

相変わらずこいつは…。

そのまま無防備な唇にさっと口付けた。

!!??

あまりに一瞬の出来事だったので
抵抗も出来ずじまい。

驚愕の瞳で椿を凝視し
そしてみるみる頬を紅潮させて行く。

「―――――っ!!!椿くん
 何で毎回、毎回、勝手にっ!!!」

恥ずかしさを隠す為に
憤慨して見せる彼女が本当に
可愛くて仕方ない。

「お前が俺の名前を
 呼ばないからだろう?
 何でだ?恥ずかしいのか?」

俺たち恋人同士だろう?

そう言うと視線を気まずげに逸らし
はあと小さく溜息を吐くかのこ。

「どうしたんだ?」

何で溜息なんて吐くのだろう。

怪訝な眼差しで彼女を見やると
ポツリと呟く。

「……どうして椿君は
 私をその、彼女っていうのさ?
 正直まだ、戸惑ってるんだよ。
 というか、なんて言ったらいいのか…。」

珍しく考えが纏まってないかのこは
うーんとこめかみを指で押さえ呻った。

その姿を椿は何も言わずに見守る。

今更急かしても仕方ない。

彼女の心が不安定なのを
たまに感じる時があるからだ。

それをもたらしたのは俺だから…
だからちゃんと色々と
受け入れたいと思うんだ。

「今でも何となく実感が湧かなくて…。
 だからその――、置いてかれている
 ような気がしてさ、心が…。
 椿君は一歩も二歩も先に進んでるのに
 私は遠くから追いかけてて…。
 とにかく私はまだ、
 椿君の隣にいていいのか
 最近すごく考えてて…。」

なんかぐだぐだでごめん、
と俯く彼女。

なんだそんなことか…。

本当に可愛い奴。

彼女の細い顎に手を掛け
顔を上げさせ
優しく子供に、言い聞かせる
ように告げる。

「俺は誰が何と言おうが
 お前が一番なんだよ。
 だから心配すんな…。
 周りの目を気にし過ぎだろう?
 お前らしくねーよ。」

わざと軽い口調で笑って話す。

「だからお前の中で
 踏ん切りがついたら
 俺の名前を呼んでくれ、
 約束だからな。」

柄にもなく、小指を
彼女の目の前に差し出す。

その指を一瞬驚いたように見つめて
躊躇いがちに指が近づき
やがて細い小指を彼女は絡ませ
少し頷いた。

繋がった指から
彼女の柔らかな温もりを感じて
胸がざわめく。






本当に苗床は初心な奴で
色恋沙汰から遠く離れていた存在。

というか自分を過小評価し過ぎなんだ。

俺の中で評価はダントツだというのに。

だけど、俺だけが知っていればいいんだ
苗床の良さなんて。

でも彼女が自分自身に
自信を持てるように
俺も手伝って行こう。

思い切り愛を注いで行こう。

椿は心の中で強く誓った。



END

相変わらず乙女かのちゃん。
すっかりしおらしくてwいいのかしら?
好きな人と出会って
感情を知って行くって素敵ですよね?
自分が椿君の彼女として相応しくなってから
名前を呼ぼうと決めていたら
何となく可愛いなと思って書きましたw
分かりにくいかしら??

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