かのこ本

□変化
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「変化」




雨の日が好きだ。

わざと傘を忘れて相合い傘。

二人だけの小さな世界が完成する。

肩と肩が触れ合って、近くなる距離が嬉しい。

俺はすっかり恋をしているみたいだ。





背の高い俺は自然と傘を持つ役目。

最初は申し訳なさそうな苗床だったが
今ではすっかり定着している。

苗床が雨で濡れてしまわないように
細心の注意を払う。

背の高さが違いすぎるので
持ち方が悪いと雨に当たってしまうのだ。











「今日も学校に傘を忘れて来たの? 」

毎度のことに若干呆れてしまうかのこ。

「つい忘れんだよ。」

「意外と忘れっぽいんだね。」

サラッと言えば苗床は案の定
それ以上言及してこない。

こいつは残念ながら、
自分のことには鈍い奴なので
俺のささやかな企みに気が付かない。

それを良いことに、毎回忘れっぽい俺を演じる。

「雨嫌いだぁ。」

「お前嫌いっぽいなぁ。
 めんどくさいからだろ? 」

「そうなんだよねぇ。
 傘が邪魔だし濡れるし。
 朝雨で、帰り晴れとかなったら
 本気で傘要らないと思うもんね。 」

「あはは、確かにそうだな。」

「椿君も雨嫌い?」

ちょっと見上げて俺に尋ねる苗床。

俺を見上げる苗床が可愛くて好きだ。 

とても小さい苗床。

クリッとした大きな目が俺を捉える時、
すぐに抱き締めたい衝動に駆られる。

だけどとりあえず、我慢、我慢…。



「前は雨が嫌いだった。」

「前は?今は好きなの?」

意外だねー、と笑う。

「ああ最近好きになったんだ。」

「何かあったの?心境の変化でも?」

怪訝な瞳を向ける苗床。

本当にガキすぎて困る。

すぐに色恋沙汰には結びつかない脳細胞。

まあそんなつれないお前も可愛いんだけどな。



「そりゃもう大きな心境の変化があったさ。」

「何だろう??想像が出来ない。」

真面目に考えているかのこに少し笑ってしまう。

「何で笑ってんの?!感じわるーいんですけど…。」

むすっとした顔で頬を膨らませる。

本当に子供だなー、苗床は…。

まあいいけど…。





チカチカ




青信号から赤信号に変わった。

交差点で信号が変わるのを待つ。



静かな空気が二人を包む。

雨音だけがハッキリ聞こえてきて
本当に二人しかこの世にいない錯覚に陥る。

時々通る車の音が俺を現実に引き戻す。



「まだ怒ってんのか?」

「ううん、考えてたの。」

「まだ?!そーゆーとこ真面目だな。」

「だって気になるっての!」

何かあったっけ?!と本気で考えているようだ。

俺のことを真剣に考えている苗床。

それに機嫌を良くする俺。

本当に単純な自分にも呆れるが…
嬉しいものは嬉しい。

自然と顔が緩んでしまう。

いけない、いけない!!

すぐに緩む頬を無理やり引き締める。



「答え知りたいか?」

その言葉に顔を上げた苗床。

知りたい!!と好奇心の瞳が
俺に訴えかけている。

このワクワクした瞳も好きなんだ。

サラサラの髪の手触りを楽しむように
頭に手を置き瞳を覗き込む。


傘が少し斜めに傾いた。




「もー椿君もったいぶらずに
 ――んっ?!」

じれったい椿に催促の言葉を投げかけるが
最後まで続かない。

柔らかい温もりに唇が覆われる。

突然の出来事に固まってしまうかのこ。

短いような凄まじく長いような時間。

そして、ちゅっと名残惜しそうに
頬にも口付けを送る椿。

暫く呆けていたかのこだが、
みるみる頬を染めて椿の胸を叩いた。


「な、な、なんてことをーー!!!
 つ、椿くん///!!」

今にも爆発してしまいそうな心臓。

そんなかのことは逆に余裕の椿。

してやったりな表情にかのこは
わなわな震えて二の句が告げない。


「さっきの答え。」

「へ?!何のこと?!」

キッと眼鏡越しに睨む。

先ほどのキスのせいで、その前の会話が
すっ飛んでしまっているようだ。



「だから心境の変化。」



はあーー??とハテナマークが
かのこの頭上にたくさん飛ぶ。

「だからってなんで、その、キスするの?///」

本当にガキだなー、と思う椿。

今、全てを答えてしまうと面白くない。

楽しみは取っておきたい。


「何でって、また今度な。」

「また今度ですとーーーーーーーーー!?」

その答えに憤慨するかのこ。

「こ、こんな公衆の面前で辱めを受けさせて
 今度ですと?!ろくでなし!!!!」

怒りの鉄拳が鳩尾に食い込んだ。



「ッ痛――――!苗床待て!!」



咄嗟に手が緩んだ椿は、傘を落としそうになる。

その傘をサッと掴むと、
かのこは横断歩道を一気に駆け抜けて行った。




チカチカ




また赤くなってしまう信号。

振り向きもせずに
走っていくかのこの後姿を見送る椿。

「あーあ怒らせたなー俺。
 まあいいか。」

雨に打たれながら呟く。

さしてガッカリも、心配もしない椿。

むしろドッキリが成功して嬉しい。



(早く追っかけよう。
どうやって機嫌直してもらおうか。)



あれこれ方法を思いついて、
悪戯な笑みを浮かべた。



END



いやー今日も雨がすごかったですなー。
そんな訳でUPしましたw
買い物に行くバスの中で
途中まで携帯に打ち込んでおりました。
椿君たらー公衆の面前でキスですかい?!
周りに人がいたのか、いないのか…。
椿君って好きな子は独占したいわけですから
堂々と人前でキスとかしちゃいそうなイメージ。
こいつは俺のものだからな!!アピール。
かのこちゃん南無ーーー笑

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