※ヒロイン名は【鈴】で固定です。


眺める空は、緋色に染まる。
貴方と何度眺めただろう。

そして、これから先何度眺められるのかしら…?



+++ オレンジ(lonely cat 番外編) +++



「鈴ちゃん、またねー!」

「うん、また明日ね」


小学校が終わって、クラスメイトと別れてすぐの通学路。
帰ってもお手伝いさんしかいないであろう自宅に向けて、ゆっくりと向かっていた時だった。
自分よりも1.5倍ほどある高身長の青年が、眉間に大きく皺を寄せて歩いているのを見かけたのは。
品のある深い紺地のスーツに身を包んだ彼は一瞬立ち止まり、後方に見える家の二階へと視線を向けた。
そしてふぅと深いため息をつくと、眉間に皺を寄せたまま、今度は私の方へと向き直った。

私は苦笑を浮かべつつ、首を少し傾けてその青年へと問いかけた。


「優ちゃん、また愛ちゃんと喧嘩した?」

「……」

「無言は肯定。
そう私に教えたのって、優ちゃんだったよね」

「お前は……相変わらず小学生らしくないな」

「どーも」


そう、青年は柳優時。
私のもう1人の幼なじみだ。
と言っても、愛時さんより更に年の離れたこの青年は、私とは愛時さんほど近くはない。
幼なじみの妹分ではあるものの、それ以上でも以下でもなかった。
ただ、年の離れたお隣さん。
それだけだ。


「優ちゃん、どうせまた、愛ちゃんを叱りつけたんでしょ?
話も聞かずに」

「……」

「心配なら心配だって、ちゃんと言えばいいのに。
ぶきっちょなんだから」


腰に手をあて、大きく態とらしくため息をつく。
すると優時さんは額に手を当てて低い声で唸るようにこう言った。


「小学生のお前には言われたくない台詞だな」


私もそう思う。
けれど、私はそのまま言葉を続けた。


「まぁ、愛ちゃんの事は私にまかせて。
優ちゃんはこのままお仕事に戻るんでしょ?
反省しつつ、お仕事頑張ってね」

「ああ……アイツのことは任せた」


小さい声で、ポツリと言う。
何だかんだと言いながら、愛情表現が下手くそで行き違いをしているこの兄弟は、本当によく似ていると改めて思う。
言ったら、二人とも全否定するのが目に見えてるけどね。

じゃあねと、優時さんの横をすり抜けて我が家へ走る。
荷物を置いて、お手伝いさんに行き先を伝えて飛び出せば、真っ赤な夕日とご対面だ。
沈むそれを少しだけ眺めて、突撃するは隣の二階。
二回軽くノックをして、返事を聞かずに突入した。


「たのもー!」

「……」


部屋の主はベットに仰向けに寝転んでいて、視線だけをこちらに向けていた。
私は彼に近づき、その顔の近くに肘をついて覗き込む。
何処かで喧嘩したのか、顔や身体の所々に怪我があるけれど、あえてそこには触れずに声をかけた。


「こんばんは、お寝坊愛ちゃん。
ねぇ、夕日が綺麗だよ」

「いきなり返事も聞かずに入ってきたかと思えば……興味無い」

「じゃあ、愛ちゃんはそのままでいいよ。
私はここの窓から愛ちゃんと夕日、両方見てるから」


そう言って左手で愛時さんの頭を撫でた。


「この手は何だ?この手は」

「優ちゃんにいじめられた愛ちゃんに、がんばったねーって撫でてるの」

「……別に、兄貴にいじめられた訳じゃない」

「私が撫でたいから。
はい、動かない。
動くなら窓の方見るー!」


撫でながら、愛時さんの顔とその向こう側から見える夕日を眺めていた。
今の愛時さんは強いよ、力的には。
けれど、心はまだまだだ。
だって、まだ高校生なんだから。
思春期真っ只中。
まだあの事件が起きる前だしね。
市香ちゃんと出会う、あの事件の……。


「ねぇ、愛ちゃん」

「…何だ?」

「大人になっても……私が大人になっても、おばーちゃんになっても、またこうして一緒に夕日が見たいな」

「唐突だな」

「愛ちゃんと見たいなぁ。
愛ちゃんと、それこそ愛ちゃんの未来の彼女さんとも。
あー、奥さんかな?もしかしたら。
わかんないけど、その人とも一緒に綺麗な夕日が見たいなぁ。
なんにも考えず。
ね?」


にっこりと笑みを浮かべる。
いつまでも見たい。
一緒にいたい。

そう願っては、ダメですか?神様。

たかが口約束でも、縋りたくきっとなると思うから。
だから私は口にするの。
今のうちに。


「……」


愛時さんは無言で身体を起こした。
そして私の両脇に腕を入れて抱き上げると、自分の膝の上に乗せた。


「何に対して不安になっているか知らないが、夕日くらい見てやるから……そんな悲しそうに笑うな」

「……え?」


そんなつもりは無かった。
普通に笑ったつもりだった。


「誤魔化したつもりか?
母さんには誤魔化せるかもしれないが、俺には通用しないぞ」

「……」

「ほら、見てやるから」


くしゃりと頭を撫でられた。
何時もながら、少し強めに撫でられるそれは、嫌じゃない。
けど、くやしいから、愛時さんに背を預けるように方向転換する。
これで顔は見られないだろうから。

沈みゆくオレンジ色を眺めながら、濃紺へと移る空のグラデーションへと視線を走らせた。


「綺麗だね」

「……ああ」

「夕方から夜になる間には、愛ちゃんの色が混ざるから好きだなぁ」

「何だそれ」


クスリと頭の上から聞こえた声。
それに私は上機嫌に答える。


「朝焼けもだけど、愛ちゃんの瞳の色から、髪の色になるじゃん。
安心して包まれるから、私どっちも好きだなーって」

「……そんな恥ずかしいこと、よく言えるな」

「今更?」


ニヤリと上を向く。
すると、愛時さんは少しだけ笑みを浮かべていた。


--------



「夕日だー」


あれから数年後。
私は柳探偵事務所のある屋上から、ビルの谷間に沈んでいく夕日を見ていた。
隣には煙草を吹かせた愛時さん。
秋風が少し肌寒くなって来た今日この頃、そろそろ上着が居るかな?と思いつつ、愛時さんの煙草タイムを邪魔しに着いてきたのだった。


「綺麗だね、愛ちゃん」

「……ああ」


X-dayのカウントダウンが続く中、頭を冷やすにも丁度いいのかもしれないなって思いつつ、夕日を眺めた。
あと数ヶ月。
そしたら、彼女は彼らと出会うのだから。
そして、物語が大きく動く……。


「鈴」

「んー?」


ふと名前を呼ばれ、顔をそちらに向ける。
すると愛時さんは昔と変わらず、少しだけ笑みを浮かべていた。
幼い頃、優時さんに叱られた後、夕日を見たあの日と似た笑みを。


「夕日は、今も好きか?」

「うん」

「そうか」


それだけ聞くと、目を細めて私の頭をまたクシャりと撫でる。
ふわっと、愛時さんが吐き出した煙が空に溶けた。
それは見えないけれど、確かにそこにあったものだ。
見えないけれど、確かにあって、薄く広がり溶けていく。

(好意も煙と同じだったらいいのにな…)

なんて思った時だった。


「柳先輩、片巻!
ここにいたんスか!
峰雄様特製ラーメン、伸びちまいますよ?!」


バンッと扉が開いて、峰雄ちゃんが頬をふくらませて飛び出てきたのは。
思わず愛時さんと顔を見合わせて、クスリと笑った。


「なんスか、なんスか?!」

「いや、峰雄ちゃんらしいなーと」

「折角榎本が作ってくれたラーメンが伸びるな。
戻るか」

「うん!」


愛時さんと峰雄ちゃんが扉へと戻る。
オレンジ色に照らされた彼らは、綺麗だった。
私はふと振り返る。
沈む太陽に目を細めた。

夕日が滲んで、陽炎の様に揺らいだ気がした。

 


*あとがき*

switch限定版の小冊子を読んでいたら、ふと書きたくなって突発で拍手にしてみました。
小冊子とは少し違いますが(優時さんが家に帰ってきた時ですからね、冊子は)、【lonely cat】ならきっとこうだろうなぁと。
幼馴染―ズはほのぼのが好きです。






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