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□『その時には。』
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+++ この霧が晴れる、その時まで(前編) +++



私は想いを留めます。

決して出さぬように。
伝わらないように。
そしてこの見えぬ先に隠してしまおう。

君と共にあるために。


「おはよ、岳人!!」

「…よぉ。
 お前は相変わらずテンション高けぇな。」

「当たり前じゃない。
 そう言う岳人は妙に低いね。」

「!?
 ッるせぇ!!」


いつものように朝の言い合い。
あ、よかった。
思ったよりも普通に会話出来たや。
教室で顔を合わせた時にはどうなるかと思ってたけど、意外と私の顔の皮が厚くてビックリした。
あんなに泣いたのに、溢れて来たココロに押しつぶされそうだったのに。
今は無邪気そうに笑ってる。
そう、私の望んでいた通り…いつもの日常がそこにあった。


「タオルで目元、冷やしたかいがあったってことかな。」

「何か言ったか?」

「ううん。」


昨日の滑稽な自分に一瞬苦笑いをこぼし、原因である岳人へと言葉を返す。
そう、このポジション。
君の隣、は譲れないんだ。
今の私はそれで必死で、もう一つの事には気が付いてなかった。


霧に隠したものは、自分のココロだけじゃなかったって…ことに。


あれよあれよという間に放課後。
岳人は男子部へ、私は女子部へとそれぞれテニスバックを抱えて向かう。
お互いの姿を確認するのは、極一部だけ。
なんてったって、私が率いる女子テニス部は男子テニス部よりも期待が違うからね。
テニスコートは学校の隣にある特設のものだし、部員だって彼らに比べて半分ぐらいしかいない。
…と言っても100人近くいるんだけど。

今日はこれで何とかなった。
そう思っていたものの、読みが甘かった。
一年生の指導に回っていた私に、一つ下のマネが助けを求めるべく走りよって来たのだった。


「部長〜!」

「何、マネ子ちゃん?」

「その呼び方変えてほしいです〜
 …ってそういう場合じゃなかったです!!」

「はいはい、でどういう場合なの?」

「来週のテニス部合同練習メニュー、相談しに来るように言われてたの…忘れちゃってたのですよぉ…。」

「は?」


一ヶ月に一度の男子・女子部合同練習。
それの練習メニューは部長およびマネージャーで決めることになっている。
今月はこのマネ子ちゃんが行って来るって言ってたけど…。
泣きついてくるところから見ると、流石に一人で対処するのは無理だと判断したんだろう。
しかも来週まで切羽詰まっていることもある。
あの帝王サマにこの子一人で立ち向かえるわけもないしなぁ…。
私は一つため息をこぼし、彼女の肩を叩いた。


「仕方ない…私も一緒に行くよ。」

「さっすが部長!!
 ありがとうございますデス☆」


嬉しそうな彼女を見て、また私は一つため息をついた。
あっちに行く=岳人を見る。
それは今の私にとって、至福であると同時に拷問なのだから。
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