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□『その時には。』
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+++ 涙枯れる、その時まで(岳人) +++
それはまるで当たり前で。
気が付くのが遅すぎた。
君は私が生まれる前からお隣さん。
私が生まれてから…そう、今この時でさえ。
君がいない時間なんてものは存在しないんだ。
「あのさ、俺。」
「どーかしたの、岳人。」
しどろもどろな君に、私は気が付きながらもわざといつものように言葉を返す。
君のベットに背を預け、いつものようにのんびりと過ごしていた。
次の一言で、全てが壊れるとも知らないで。
「…俺さ、好きなヤツ出来たかも。」
真っ赤な顔でそう言う君。
脳裏に戸惑いの色が浮かんだ。
「え?
…嘘。」
口を伝って出た言葉は、脳と直結しているみたい。
ツルリと滑り落ち、君へパス。
それが何かの解除スイッチを押してしまったんだろうか。
怒ったように岳人は立ち上がって私を見下ろした。
「嘘じゃねぇよ!!
んだよ、それっ!!」
大きく肩を揺らし、私につっかかる君。
私はというと、目を大きく見開いて、身動きが取れなくなってしまっていた。
あまりの衝撃に。
あまりの言葉に。
思わず私の全てが機能を停止してしまうかのように。
「ったく…折角人が大告白したっつーのに。
幼馴染としたら、少しくらい気の利いたセリフ言えないのかよ。」
「いや…なんて言うか…現実味がなくって。」
体や目はそのままに、対応するは明らかに嘘のコトノハ。
現実味がないわけじゃない。
だって、岳人が私に嘘なんてついたこと…ないもん。
ビックリしたのだって嘘じゃない。
だって、今も体が上手く動かないもん。
だけど私は、勝手に動くロボットみたいに君に対応してるんだ。
有り得ないくらいに、普通に。
「で、それって誰なの?」
「え゛っ!?」
「私に言うくらいってことは、協力してほしいってことなんでしょ。」
そう言いながら、君のベットから私は枕をつかみ、両手で抱きしめるように抱えた。
羊の形をしたそれを。
よく眠れるようにと、私が君の10歳の誕生日にあげた枕。
最初はいらないって言ってたクセに、意外と寝心地がいいと、15になった今でも使ってくれている。
それをぎゅっとしつつ、私はまた言葉を吐いた。
「しかも私の近い人、なんじゃない?」
ドクリと黒いものが渦まいている。
胸のうちを回ってる。
今まで知らなかった物体が、私の体を乗っ取るかのように。
羊さんの枕、それをどうか眠らせて?
今はまだ出させないで?
そう願いながら、私は君の言葉を待った。
真っ赤に顔を染め、何だかいいにくそうな岳人。
初めて見る顔。
それにまたドロリとしたものが存在を強めた。
「あー…うん。
近いっちゃ近いんだけど・・・。」
「はっきりしなよ。
ゴチャゴチャ言うなら、私帰るよ?
話があるからって来たんだもん。」
「わーってるよそれくらい!!」
「なら吐け!!
じゃなきゃ帰る。」
「う゛っ…」
苦しそうに叫び声を上げそうなくらい、羊さんを抱きしめる。
抑えて、抑えて。
今にも溢れてしまいそうだから。
だけどそんな私の気持ちも知らず、君は押し黙った。
ああ…もう知らない。
「じゃーね、岳人。」
「ちょいまッ!?」
「話す気になったら言いなよ?
じゃーね。」
八つ当たりするみたいに、羊さんを岳人の顔面に投げつけてやった。
「うわっ!?」
お邪魔しましたーと急ぎ足で家を出て、私が向かうは近くにある河原の端の下。
一歩外に出た瞬間、私は思いっきり走り出した。
もう少し、もう少しだけ待って?
羊さんが押さえてくれてたストッパーを必死に左手で閉じて、全力疾走。
額から汗が伝う。
人の目線なんてどうでもいい。
ただ、あの場所へ!!