nodame
□窓際のスープカップ
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「風呂入れよ。」
千秋が久しぶりに部屋に帰ってくると、のだめがピアノに座っていた。
髪の毛はボサボサで、数日入浴していないように見える。
「あれ、先輩?早かったデスね?」
「何かいやな予感がしたからな。」
「いやな予感?」
とぼけやがって。
千秋はコートを脱いで腕まくりをした。
足元には脱ぎっぱなしの服とどこから出たのか分からないゴミ。
「お前が部屋を荒らしてるっていう予感だよ!まず風呂に入れっー!」
むんずとのだめを引っ掴み、浴室へ放った。
一息吐いて辺りを見回すと、楽譜がちらほら、プリごろ太の漫画があちらこちらに。
「マーキングも大抵にしろよ…。」
ため息を吐きながら、漫画を本棚にしまう自分を甘いと感じる。
頭をかきながら、キッチンに入り、鍋に火をかけ、遅めの昼食の準備をする。
俺はそんなに空いてないけど、あいつはきっと空かせてるだろうから…
悔しいけど、あいつのことで頭はいっぱいで。
千秋は野菜を切りながら思った。
適当に野菜を鍋に入れれば野菜スープが出来、自分の分をカップによそい、カップ片手に楽譜を持ち、窓際に寄りかかった。
午後の色彩の薄い柔らかな日差しが気持ち良い。
どこからか聞こえるジャズのメロディ。
クラクションを鳴らし走る車の音。
火にかけっぱなしにした鍋がコトコト言う音。
誰かが誰かに挨拶する声。
街を行き交う人々。
古くからの趣のある橋。
レンガ造りの向かいの家。
作りたてのスープの香り。
春の風の匂い。
せっけんの清潔な香り。
腕に感じる息遣い。
のだめが気持ちよさそうに瞬きをする。
髪の毛に指を通すと、気持ちよさそうに目をつぶる。
まるで猫みたいな仕草に思わず笑ってしまう。
のだめは不思議そうに千秋を見上げ、桟に置いた自分用のカップに手を伸ばした。