+Novel+
□最初が肝心
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目が醒めると、郁は天井を見上げていた。
―――あれ…あたし……
朦朧とする記憶のなかで、自分が今この状況に陥ることになった原因を探ろうとする。
次第に頭がはっきりしてきて、ここが基地内にある医務室であることに気付くと同時に、近くに人の気配を感じた。
「気が付いたか」
声の主は自分が所属する班の班長で、鬼教官のものであった。
「堂上…教官…?」
目覚めたばかりの頭では到底理解できそうにない状況で。
それを察した堂上は、大きなため息をついた。
「お前なあ…」
また何かやらかしたのかと拳が頭に墜ちてくるのを待っていたが、一向に痛みが訪れないので瞳を開けてみると、そこには苦しそうに顔を歪めた堂上の姿があって。
「…きょ…」
教官、と言いかけた唇は、今更ながら落とされた拳骨にあっさりと閉じられた。
「いっ…!いたっ…!!」
瞳に涙を浮かべながら抗議の声をあげた郁だったが、けれど堂上の怒りや心配やその他色々なものが混ざり合った顔を見てしまっては何も言えなくなってしまった。
「阿呆か貴様はッ!風邪をひいているくせに何故訓練に参加したりした!」
―――あぁ…そうだあたし風邪だったんだ…
堂上の説教をどこか遠くで聞きながら、やっと自分が今ここにいる原因を思い出した。
堂上の説教によるとハイポート中に倒れた郁を、どうやら堂上がここまで運んでくれたらしい。
風邪をひいているからか、いつもなら躊躇うようなことも平気で言えた。
「…すいません、教官。ありがとうございます…」
郁の反応に驚いたのか、堂上は目を点にして郁を見つめた。
すると堂上の顔からみるみる怒りの表現は消えていき、変わりに微笑が浮かんだ。
「お前の口から礼を言われると、気持ち悪いな」
「…なんでそうなるんですか」
人が折角素直になって感謝の意を表したというのに、当の本人が気持ち悪がるなんて。
「もういいですよ」
馬鹿馬鹿しいと思いながらも堂上に背を向け、毛布を頭に引きかぶる。
ふと、毛布ごしに頭の上を何かが触れた。
それはとても優しく郁の頭を撫でていて。
「ゆっくり休め。風邪は引き始めが肝心なんだからな」
それだけ言うと、ベッドの横の気配は次第に遠ざかっていき、やがて廊下に響く足音も聞こえなくなった。
堂上が居なくたった医務室はやけに静まり返っていて、遠くから訓練の音が聞こえてくる。
その音に耳をすましているうちに次第に瞼は重くなってきて、そのまま郁を夢の世界へと引き込んで行った。
グラウンドに戻ると小牧が近付いてきて
「笠原さん、大丈夫だった?」
と聞いてきた。
「あぁ」
笠原が居なくなった新隊員の群れをただじっと見回しながら小牧に答える。
すると突然小牧が耳元に唇を寄せて囁いた。
「寝込み襲ったりしなかっただろうね?」
「するわけないだろう!馬鹿野郎!」
力任せに怒鳴ると、小牧は笑いながら立ち去って行った。
あとに聞いた話だと、郁が倒れたとき一番に駆け付けたのは堂上で、彼よりも近いところにいた先輩隊員はただ唖然としていたそうだ。
「あんた大事にされてんのねー」
情報好きの柴崎にそう言われて、郁が真っ赤になって否定したのはまた別のお話。
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