+Novel+
□愛という狂喜の果てに
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甘い 甘い 薫り
それは花の蜜のようで
ぼくの想像以上のものだった
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ねえ、ベラ」
神なんていない。
この躰で生まれたそのときから、ぼくらに差し延べてくれる主の姿なんて存在しなかった。
あるのは自分という自我のみで。
汚れてしまった魂をそれ以上汚さぬように、ただひたすらに己を律した。
その結果がこれだなんて、やはり神など存在しないのだと実感してしまう。
実感…
これじゃまるで神がいると期待していたみたいで、そんな自身に嘲笑が押さえ切れない。
「今日も良い天気だ」
足枷を引き摺っていたのは遠く昔のこと。
鍵を探してひたすらに走り続け、けれど立ち止まって振り向いて見れば自分の後ろには沢山の死体の山。
足枷がまた重くなる。
鍵が遠くなる。
そしてまた探し出す。
後ろには死体が増えて逝く。
「また草原に行きたいかい?」
彼女を手に入れる為ならなんだってしてやった。
愚かな雌羊は怯えるという行為を知らず、血に飢えた肉食獣の生贄に進んでやってくる。
その瞳に写った己の姿は直視なんか出来ない程醜く、欲に塗れていた。
羊がぼくを見れたのは、その心が汚れを知らなかったからだ。
ぼくはそれに魅せられた。
「ベラの好きな花だよ、持って来たんだ」
そう言って花を差し出してやれば、彼女は嬉しそうに微笑んでくれる。
目を瞑って、口を結んだまま、花の薫りに頬を弛ませる。
『ありがとう…エドワード』
そう呟く彼女の唇は、白くて動いたようには見えなかった。
そっと人差し指を這わせると弾力はなく硬くなっているのが感じ取れる。
瞼にかかった長い睫毛はピクリともしない。
またあの優しい瞳でぼくを見つめて欲しい…だからぼくはいつまでも君に寄り添うことしか出来ない。
ずっと抱き締めていたからか、まだその躰には微かな温もりが残っているように思う。
すっかり硬直して動かなくなっていたけれど。
普段より更に白くなった肌をゆっくりと撫でてみる。
けれどぼくの指が辿ったあとには紅い液体が残ってしまった。
「…嗚呼、いけない。ベラが汚れてしまうね」
己の舌でその紅を舐め上げれば、口内に花の蜜のような甘い味が広がった。
想像以上だよ…君の血は。
呟いて、彼女の唇に自分の唇を落とす。
もう二度と動くことがないその唇に、精一杯の愛撫を注ぐ。
彼女の躰にはもう一滴も血が残っていないだろう。
何故…?
ぼくが 呑んだからさ。
事切れた彼女の首筋に舌を這わせたときのあの興奮。きっと永遠に忘れないだろう。
体温が冷えてしまう前に、その香しい血を堪能したい。
全ては本能のままに。
彼女の血は想像以上に甘かった。
コニャックなんて例えにならないほどに。
けれどどうしたことだろう。
胸が満たされない。
喉は潤っている筈なのに、苦しい締め付けにあっている。
どうして?
どうして…
どうし、て…
あぁ、そういうことか。
分かったよ。
君を失った苦しみは、君の味を上回るものだったんだね。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
エド×ベラ 氏ネタ…でした。
なんでこんなの書いたんだろう…(知るかよ
エドワードがベラに牙立てるなんざ有り得ねぇ!
と思いつつ、見事に自分を裏切ってみました。←
20080729