+Novel+

□小春日和
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月に一度か二度ある公休で、映画館や遊園地、主要なデートスポットは全て行き尽くしてしまった。

「たまには公園とか行くか」

堂上のその一言がきっかけとなり、あたしたちは今小さな公園のベンチに座っている。










小春日和










さくらの花も散ってしまい、穏やかな春の日差しが降り注いでいる。
堂上たちは今、閑静な住宅街からさほど離れていないところに位置する、小さな公園に来ていた。
手を繋いでベンチに腰掛ける姿を見れば、普通に結婚している夫婦にみえる。

郁たちの間に会話はなく、目の前で楽しげに遊ぶ子どもたちを眺めていた。

ふと、郁が沈黙を破った。

「篤さんは、子ども好きですか?」

子どもたちから目を離さずに郁がぽつりと呟く。

一瞬堂上は目を丸くして郁を見つめたが、すぐに視線を子どもたちに戻してあぁ、と答えた。

「誰かさんもガキみたいだしな」

「…どーゆー意味ですかそれ」

ぶうたれた郁を横目で捉えて堂上は声をあげて笑った。

「別にお前のことだと言った覚えはないぞ。自覚あんのか、お前」

「なっ…!それずるいです!」

憤然として堂上をばしばし叩く郁を軽く流しながら、堂上はくっくっと笑いを堪えた。

その時、堂上の足元に小さなボールがコロコロと転がってきた。

視線をあげると足取りのおぼつかない小さな男の子がよちよちとこちらに向かってくる。

「まーくん、気をつけてよー」

まーくんと呼ばれた男の子は、可愛らしい声ではぁいと答えながら、必死にボールに追いつこうとしていて。

堂上は身を屈めて足元にあるボールを片手で掬い上げると、目の前で立ち止まった男の子にすっと差し出した。

「はい、どうぞ」

そう言った声はとても優しくて、けれど郁と2人きりのときのそれとも若干違っていた。
ふと横から顔を覗いてみれば、そこにはとびきりの甘い笑顔。

その表情を見た瞬間、心臓がドクンと跳ねた気がした。

「ありがとお、おにいちゃん!」

顔いっぱいに笑顔を浮かべて、男の子は母親らしき女性の元へと駆け出した。



「…可愛いですね」

「…あぁ」

「篤さん…良いお父さんになりそう」

ふふっと零した笑い声は2人の間に流れる甘い空気に溶け込んで消えていく。



「…だとしたら、お前が母親なんだからな」

いきなり堂上の口から飛び出た爆弾発言に、郁が顔を真っ赤にさせて口をパクパクしたのは言わずもがななことである。





「…結婚するか」










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