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□最初が肝心
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朝起きると少し頭痛がした。
熱を測ってみると37.2℃。
風邪というほどの熱ではないので、仕事は休まないことにした。
そうはいってもいつものような郁ではないことは確かで、朝食も半分以上残す始末だった。
そんな郁を見て柴崎は

「馬鹿でも風邪引くのねー」

などと失礼千万な言い様だが、郁が部屋を出るとき

「あんまり無理して倒れるんじゃないわよ。」

と一応は心配していた。

「分かってる」

と、力のない返事をした郁だったが、その日の午後柴崎の予感は見事的中するのである。





『最初が肝心』





その日は、午前中に座学があり、午後からは陸上訓練だった。

座学は寝ていたこともあり、大して風邪に影響はなかった。

―――これなら大丈夫かも…

昼食を取りながら午後の訓練に参加するか考えていた郁は、体の調子が朝より良いような気がしたので、そのまま訓練に参加することにしたのである。



午後の訓練が始まって間もなくである。

「ねぇ堂上、笠原さん今日おかしくない?」

新隊員の訓練の監督者として、訓練している隊員から少し離れた場所にいた堂上のところに、同僚の小牧が訝しげな表情でやってきた。

「あぁ、気付いたか」

小牧が指摘してきたことは、既に自分も気付いていることだった。

今日の訓練内容はハイポートだ。
いつもの郁なら男子隊員にも負けずに上位に食い込んでくるのだが、どうしたことか、今日は女子隊員の中に混じって走っているのである。

「いつもの笠原さんなら考えられないよね」
「あぁ…」
「もしかして体調良くないんじゃない?」
「かもな」
「“かもな”って…配慮とかしないの?」

正論好きの小牧からは普段聞けないような提案でる。
それほど今日の笠原は辛そうだということだ。

「笠原は俺たちに何も言ってきていない。そこで俺たちが勝手に判断して余計なことをするのは、他の隊員に対して公正ではないだろ。ましてや笠原はもう一人前の大人だ。自分の体調管理なんざ、自分で出来て当然だ」
「…まあ、それはそうなんだろうけど」

そこは正論なので小牧も頷くが。

―――しかし…本当に危ないな…

走っている郁は、今にも倒れそうだ。足がおぼつかなくなっている。

「笠原ぁッ!!腕下がってるぞ!!腕上げろ!!腕ッ!!」

数百メートル離れた郁に聞えるように声を張り上げる。

「…にしたって鬼教官だよね」

小牧の言葉を完全に無視し、堂上はひたすら郁を観察し続ける。

郁は苦しそうに顔を歪めながらも、最終的にきちんと完走した。最初の頃と違い、地面に倒れこむような真似はしない。

「ほ…なんとか行けたね」

隣りで小牧が安堵のため息を漏らし、堂上も密かに安心した。

「15分休憩いれるか」
「…そんなに心配なら、変な意地張らなきゃいいのにね」

いつものように小牧の軽口は聞き流し、自分も休もうとグラウンドに背を向けたときである。

ドサッという音がしたかと思うと、女子隊員が声をあげた。

「笠原!大丈夫!?」
「笠原ッ!!ちょっと!!」
「教官!!笠原が…!!」

小牧が堂上の名前を呼んだときには、堂上は既に走り出していた。










TO BE CONTINUDE…
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