小説

□か
1ページ/1ページ


「今年ももう終わりなんだね」

寒空を見上げながらNはそう言った
もう12時近いということもあってか、気温も下がりきっていて外へは出れそうにない
だから俺とNは、窓越しからの空しか見れない
そんな真っ暗な空に時折吸い込まれそうな錯覚に陥る

「なんかこの一年、色々あったけど終わるには早すぎる気がする。やり残したことも、あるし」

そんな俺の言葉に、Nはふわりと笑って言った

「確かに、それは言えてるね」

その笑顔はまるであの寒空にひっそりとそれでいて凛と佇む月のようだと思った
つい笑顔に見とれて言葉を返すのを忘れていたら、Nが俺の顔を覗いて不思議そうに言う

「…僕の顔に何かついてる?」
「え?…いや、違う」

見惚れてました、なんて言えない
けど、こんな可愛い表情を見れて少し嬉しかったりする
そんなことを考えていたせいか、自然と口許が緩んでいた

「どうかしたの?」
「Nのこと考えてた」
「トウヤって急に親父臭くなるよね」

そう言って俺の髪を弄り始める
白くて長い指が、髪に絡む

「あのさ、来年もその先もずっと一緒にいて欲しいんだ」
「はは、約束はできないよ」

俺の願いに対しぴしゃりとそう言いきられた
少しばかり開けられた窓から、冷たい風が頬を撫でる

「嘘でも、はいって言おうまぁ、よ…」
「でも、」
「えっ?」

躊躇いがちに口が開かれたと思ったら抱き着かれ小さな声で言われる


「まぁ、考えてあげてもいいかな、なんて」
「え、ぬ」
「そ、そんなに見ないでよ…」

腰に回される手に少し力が入った
悪戯心で髪を撫でると、身動ぎされた

「ずっと一緒にいられたらいいのに」

窓の景色を見据えながら俺はそう言った
ふと時計を見ると、針は11:59の位置

「そう、だね」
「あ、キスしたい」
「へ?」

Nは一瞬キョトンとした表情をした
が、やがて思考が追い付いたのか目を見開く

「だから、キス、したい」
「な、なんで急に」
「ほら、目、瞑って」
「え、ちょっと……、ん、…」
「可愛い」
「……トウヤのバーカ」

俯きながらも分かる程顔を赤らめたNに二度目のキスを落とす
幸せだな、と心からそう思った




時計の針は0時ぴったり
今年もまた、始まった










(願わくば、)
(貴方との永遠の愛を)







[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ