short short story

□この恋に勝算なんて無かった
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元々、勝算なんて無かった。
性別だとか、環境だとか、確かに高い壁だったけど、
僕にはそれよりも、決して越えられない壁があった。

君と誰よりも近かった僕。
君を誰よりも知ってた僕。
君を、誰よりも愛してた僕。


だからこそ気付いてしまったんだ。



君があの人を想っていることを。












この恋に勝算なんて無かった













僕と彼は幼い頃からいつも一緒だった。
家族ぐるみの仲とあって、家も隣通し、小学校から高校の今まで同じ学校に通い、登下校もいつも一緒。
今まで生きてきた中で、半分以上を彼と過ごしてきた。

性格こそは、不真面目でマイペースな僕に対し、彼は真面目過ぎるほど真面目だけど。
周りも納得の、仲のいい幼なじみ。

僕もそれで良かったし不満なんて無かった。それ以上もそれ以下も無い、幼なじみという関係。


だけどいつしか僕は、僕だけは、只の幼なじみとして彼を見る事が出来なくなっていた。


男の子なのに、まるで女の子みたいに綺麗な顔をしていて、少し癖のある紫がかった黒髪で、僕より小柄な彼。

成長する程にどんどん美しくなっていく彼に、気付いた時には友情が愛しいという恋心に変わっていた。


その想いに気付いてから、どんどん加速する好きという感情。


だけど、彼にとって僕は只の幼なじみでしかなくて、勿論恋心を抱いているのは僕だけで、


友情と恋心、釣り合わない互いの感情が切ない。



勝算なんてかけらも無かった。
だから僕は、得意の笑顔でごまかして、想いをしまい込んだ。

気付かれちゃダメなんだ。
この想いを知ったら、きっと彼は離れていく。

だから決して想いは伝えない。
僕は只の幼なじみを装って、彼の側にいることを決めた。




そんな彼には尊敬する人がいた。

紫の瞳の、艶やかな黒髪。

僕はその人が嫌いだった。

彼が何故そこまで尊敬してやまないのか、僕には分からない。


だけどその後、僕はその理由を知る事になる。






ある日、彼から相談を持ち掛けられた。

普段からなんでも自分で解決しようとする彼。
そんな彼が自分に相談してくれた事が嬉しくて、「どうしたの?」って聞く声が弾む。

だけどそれはつかの間。



「好きな人が…出来たのだ」



その言葉を聞いた瞬間、僕は頭が真っ白になった。

まるで包丁か何かで心臓を刺されたように、えぐられたように痛くて堪らない。


ねぇ、相手は誰?それは可愛い女の子?


そんな僕に気付かず、彼は少し頬を染めて、ぽつぽつと話す。



彼が想いを寄せた相手は、紫の瞳を持つ、艶やかな黒髪の人。

彼が尊敬してやまない人。


僕の、大嫌いな人。



どうして?なんであいつなの?

どうして…僕じゃ駄目なの?


「そう…なんだ」

必死に絞り出した声。震える声を隠すように、僕は無理矢理笑顔を作った。


「君なら…きっと上手くいくよ」


「総…司?」


そう言って笑ったはずなのに、何故か彼は僕を見て驚いていた。

おかしいな、上手く笑えてなかったのかな…

すると、彼の手が遠慮がちに僕の頬に触れた。



「何故…泣いているのだ…?」



心配そうに僕を見る彼。


泣いてる…?


頬を触れば、濡れた感触。




気付けば、僕は泣いていた。

笑いながら、情けない顔で泣いていた。


あぁ、こんな時に泣く、なんて

だけど、気付いてしまった涙は全く止まる気配が無い。



「ごめん…一君…」


本当は。

本当はね、君が好きなんだ。
ずっとずっと、側にいた君が。


誰よりも君を愛してるんだ。
「上手くいくよ」なんて、本当は思ってなんかいないよ。


本当は今すぐに君を抱きしめて、キスをして、「君が好き」って、「あの人じゃなくて僕を見て」って、


言えたら…いいのに。



だけど、弱い僕は。

只君の隣で泣くことしかできない。


「ごめん…ね」




この恋に勝算なんて無かった。

ただ君が幸せなら、僕はそれでいいよ。
今まで通り、側にいられるなら
それだけでいい。

だけど…今だけは。



どうか今だけは、泣くことを許して…





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