short short story

□とある猫と一君と
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最近、屯所に一匹の猫が訪れるようになった。

綺麗な毛並みの真っ白な猫だ。

俺が縁側で茶を啜りながら一休みしていると、決まって其奴は俺の方へと寄って来て「ニャー」と鳴きながら足元に擦り寄ってくるのだ。

「またお前か」

手に持っていた湯呑みを側に置き、軽く頭を撫でてやると、気持ち良さそうに目を細め「にゃあ」と一鳴きする。

ついでに喉を撫でると、ぐるぐると喉を鳴らしてくるものだから、少し…いや、かなり愛らしいと思う。

元々俺は動物が嫌いではないから、そう思うのかもしれないが。

そんなことを頭の中で独り言のように考えながら、俺はまた茶を啜った。
ふぅ、と一息ついて、また猫を見遣る。


「お前は何故いつも屯所に来るのだ?」

答えが返って来る訳ではないのに、何となく、唐突に猫に尋ねてみる。

すると猫は返事の代わりに、縁側から俺の膝の上へと器用に飛び乗ってきた。
そのまま体を丸めて「にゃあ」と鳴く。

「…要は暇なのだな」

なんとも猫らしい理由だ、と軽く笑いながら、猫の背中を撫でた。


今日はとても天気がいい。
ぽかぽかとした太陽の光が心地良くて、うっかりすると寝てしまいそうだ。


うとうとしていた最中、不意に近くの方で「ニャー」と言う、なんともわざとらしい声が聞こえた。
明らかに猫ではない。

というか正体は確実にあの男だろう。

俺はハァ、と盛大に溜息をつきながら、声のした方へと視線を向ける。


「其処にいるのは分かっているぞ、総司」


妙な鳴き真似をしていた人物の名を呼ぶと、角から「見つかっちゃった〜」と総司が顔を覗かせた。

「そんな所で何をしている」

「だって、猫と戯れる可愛い一君なんて滅多にお目にかかれないじゃない。だから、観察?」

悪気もなくさらりと笑顔で言ってのける総司に、もはや呆れるしかない。

「それよりさ、ニャー。」

「…なんのつもりだ」

ついに頭がイカれたのか?

「猫だよ猫。僕は今から猫になるの」

………は?
なんだか頭が痛くなってきた。
この頃には先程感じた眠気など、微塵と残ってはいなかった。

「…あんた頭大丈夫か?」

少し心配になってきた俺は、総司の顔色を伺う。

「大丈夫にゃー。それより一君に頭撫でて欲しいにゃー!膝枕して欲しいにゃー!」


「…………」

……成る程、
それが目的かこの馬鹿は
心配して損をした。



殴っても、いいだろうか。




とある猫と一君と






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