short short story
□手を繋いで帰りましょう
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「以上だ。皆気をつけて帰れよ」
ホームルームの終わりを告げるチャイムと、担任である土方先生の号令が終わると同時に、一斉にクラスがガヤガヤと賑やかになる。
僕は「んー…」と大きく伸びをすると、一君の方へ視線を向けた。
「はーじめ君!帰ろー」
僕は隣の席で帰り支度を始める一君に、帰ろうと声をかける。
「あぁ」
テキパキと教科書を鞄にしまう動作を止め、一言返事を返すと、僕に少しだけ笑ってくれた。
あぁ、可愛い。
その思いの衝動のままに、周りにまだ人がいるのも気にせず、ゆっくりと一君の白い手へと自分の手を重ねてみた。
一瞬ビクッと驚いた一君だけど、途端に眉間にしわを寄せて、
「…やめんか馬鹿」
さっきの可愛い笑顔(というか微笑?)は何処へやら、土方先生みたいな不機嫌な顔して、やっぱりいつもみたいにペシッと僕の手を叩いて怒っちゃう訳で。
「いいじゃない、もうクラスの子殆どいないし」
なんて半分嘘の出任せを意地悪な笑顔で言いのけながら、懲りずに今度は指を絡ませてみるけど、
「…そうではないっ!、が、学校だぞ馬鹿者っ!」
なんて顔を真っ赤にしてプイっと先に教室から出て行ってしまった。
あれれ、ちょっとやり過ぎたかな…
そう感じながらも、「可愛い君が悪いんだから」と全く反省なんてせずに、僕は自分の鞄を肩に引っ掛けて一君を追いかけた。
「ねぇ一君〜」
「……」
「ねぇってばぁ〜」
「………」
「は〜じめく〜ん」
一君に追い付いたはいいけど、さっきからずっとこの調子。
完全に無視してるよこの子、僕めげそうだよ。
さっきのは一君が可愛くてしただけなのになぁ
ムスっとした一君の横顔を見て、僕が盛大な溜息をすると、ボソリと彼が何かを口にした。
「ん?何か言った?」
でもそれがすごく小さな声だったからよく聞こえなくて、僕はもう一度聞き返す。
「………今なら……構わん…」
一君は顔を俯かせて、またボソリと呟く。
今ならって………?
僕がポカンとしていると、今度は僕に綺麗な蒼の眼をしっかりと向けながら、
「だ、だから!今なら…その、手を繋いでも構わん…と、」
言っている………
だんだんと小さくなる声と並行して、みるみる一君の顔が茹でタコみたいに真っ赤になる。
あぁもう、本当に君は…
「っ!?そ、総司…?」
「可愛いくって、困っちゃう」
僕は一君を思いっきり抱きしめた。
こんなに可愛いのって、もはや反則でしょ。
抱きしめたくもなるよ
一君はというと、抵抗という抵抗もせずに、僕のカーディガンをぎゅっと握り締めてすっぽりと腕に納まっている。
それをいいことに、外だということも気にしないで僕はしばらく一君を抱きしめていた。
「帰ろっか、一君」
あれからかなりの時間が過ぎただろうか。
空は綺麗な夕日に染まっていた。
夕日に染められた一君に、僕は笑顔で手を差し出す。
「あぁ、総司」
一君もそれに答えるように、ふわりと笑って僕の手を取る。
ゆっくりと互いの指を絡ませて、恋人繋ぎをして。
「帰ろう」
可愛い彼の手を、一層強く握った。
手を繋いで帰りましょう
(2010.08.24一部修正)
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