テキスト


□非日常の。
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ね、頼むからさ。
一回ぐらいいいだろ?


しつこいな、僕はいやだって言ってる。


ひばりぃ…



最近、こいつが応接室にきてから口にするのはこの話題ばかり。
いいかげん僕も飽き飽きしている。





非日常の。









「あのさ、今度の土曜、野球の試合があるんだけどさ、その試合勝ったら俺たち県大会いけるんだぜ!」

「ふ〜ん」

並盛中がいい意味で目立つことに、僕は何の文句もない。
むしろすごく誇らしい。

「だから、ヒバリも見に来てよ」

「ヤダよ」
 
「なんで!?
 ヒバリが来てくれたら俺すッごい頑張れると思うのな」

「…群れたくないし、暑い」

「頼むよ!な?
 野球部の奴らに頼んで、ちゃんと場所とっててもらうからさ!」

「いやだって言ってるだろ、
 しつこいよ、君。
 僕は忙しいんだ」

「…なぁ、ほんとに、一生のお願い!」





こいつはいつもこんなにしつこかっただろうか。
本人にはいってやらないけど、こいつの近くは結構居心地がいい。
山本は一見すごく大雑把で、何も気にしていないように見えて、本当はいろんなことを考えている。
僕がいや、といえばしかたないな、と苦笑しながら引き下がる。
だからこいつの隣はすごく居やすい。


僕は誰かと群れることは大嫌いだ。
1人で行動できないような弱い奴だから固まって歩く。
馬鹿みたいだ。
でも、山本ぐらいなら隣においてやってもいい。
アイツは空気になれる、といえば語弊があるが、あいつが隣に居ても僕は不思議に不快にはならないのだ。

そんな山本が、これだけ食いついてくるなんて初めてではないだろうか。


「なぁ…ひば…」

「ッ…しつこいって言ってるだろ!」


あまりのしつこさに、僕はキレた。

僕の怒りを察して、山本はあわてて立ち上がったが、僕の振り回したトンファーが山本の鳩尾に入ったようで、山本はそのまま蹲った。


「…ッ、ゲホッッ…」



チクリと、どこかが痛む。



でも、そんな痛みはいらない。
誰かを攻撃して…人が苦しんでるのを見て、自分が傷つくなんて…

こんな痛み、僕のじゃない。


「君はうるさいんだよ。
 そんな用事ぐらいでもうココにくるな!」


山本をたたき出して、僕は応接室の鍵を閉めた。





部屋の中には僕の呼吸音がする。



手が、震える。




「…ッ」






僕は、こんなに弱かった?












少しきつく言い過ぎたかな…。
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