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□ランチタイム
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ランチタイム



「よっ、ヒバリ」

「……。」

「一緒に昼飯食おうぜ?」


また来た。
応接室に無断で入り込んだ草食動物の群れを倒してからというもの、コイツは毎日やってくる。



1日目、とりあえず噛み殺した。




2日目、また噛み殺した。




3日目、4日目、5日目…1週間、2週間…


どれだけ強く殴っても次の日には平気な顔で応接室にやってくるコイツに、僕は根負けした。
いや、決して負けてはいない。
ただ、コイツを噛み殺すことに飽きただけ。





「なぁ、せっかく昼休みなんだから休もうぜ?
 腹減ってるだろ?」

「君が出て行ったら食べるよ」

「えー?
 俺、昼休み最後までここにいるつもりだぜ?」

「じゃあ食べない」

「そんなこというなよ、な?
 お前細いんだから食べなきゃ」

「だったら君がここから出て行けばいいんだよ」


書類から一時も目を離さずに冷たくあしらう僕の言葉に、
山本は、それはいや、と短く答えて渋々と1人で食べだす。







「――…で、ツナがそこで…
 そしたらそん時に獄寺が…」


山本はよくしゃべる。
僕はあんまりしゃべる方じゃないし、返事も相槌もかえさないのに山本が来てからの応接室は騒がしい。


「ヒバリ?聞いてるー?」

「…聞いてないよ」


こうして、1人でずっと話しながらも、コイツは毎日昼休みが終わる15分ほど前には次は英語で板書が当たってるから、とか体育だから着替えなきゃ、とか先生に呼ばれているから、とか…何かの理由をつけて教室へと帰っていく。




山本はもしかしたら僕が昼食をとれるように早く帰っているのかもしれない、なんて、柄にもなく考えてみたりしたけれど…


そんなこと僕には関係ない。



もうすぐ昼休みが終わる。
僕はパンの最後のひとかけらを口に入れた。

 












「よ、ひばり!…え?」


いつものように応接室の扉を開けて俺はいつもとは違うことに少し戸惑っていた。


「冷房入れてるんだ、入るなら早く閉めなよ」

「わ、わりぃ」


ヒバリの口調はいつもと変わらず淡々としている。
ヒバリの視線もいつもと変わらず俺を見ることはない。

ただ、


「昼飯もう食ってんのか。
 いつもより早いな」

「君がいつも来るせいで食べれないから、君が来るより先に食べようと思っただけだよ」


いつもより風紀の仕事が多かったから時間がずれたけど。
顔を上げることなくそういうヒバリの耳はいつもよりも赤くなっていた。


うわ…なんかかわいい。
顔も赤くなってんのかな?
顔覗き込んだら殴られるかな…


いろいろと葛藤しながら、俺は必死で赤くなっているのを隠しているヒバリの様子に気づかない振りをする。
ここで何かいえば、ヒバリのことだ、意地を張って俺と一緒に昼飯を食べることをいつもどおりかたくなに拒否しだすに決まってる。


「じゃあ、俺も食おうっと」


ヒバリが何か言いだす前に俺は弁当を広げた。








それは、小さいようでとても大きな第一歩。









「山本、最近誰と昼ごはん食べてるんだろうね?」

「野球馬鹿のことッスから、きっと野球部の連中と食ってるんじゃないスか?
 授業始まるギリギリに駆け込んできますし」




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