小説執筆2
□人の気持ちなど
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「顔色が悪いな」
ドキッ
としたのは、惚れた相手に話しかけられたと言う喜びではなく、惚れた相手に触れられたくない事に触れられたという気まずさからだった。
「気のせいじゃね?」
「そんな青白い顔で言われてもな」
お前は普段から割りと白いけど、となんだか屈辱な言葉にも今は反論出来ない。
夜中の特訓が引き金で体調が優れないなどと、そんな情けない事情を晒したくはない。
「大丈夫だって!旦那のが疲れてんじゃねえの」
焦ったような笑顔になっているのは自分でもわかる。口許がぎこちないから。
だからかは知らないけど、旦那の眉間に皺が寄った。
「カッコ悪いところを見せたくないとか」
そんな不機嫌な顔のまま旦那が口を開いた。次はギクッとした。
「情けないところを見せたくないとか」
「う…」
取り繕おうとしていたさっきまでの意気込みはどこへやら。
今度は俺の眉間に皺が寄って、俯いた。
旦那がぽつりと呟いた。
「そんなことより、私は無理をしてる姿を見る方が、嫌だ」
「…へっ」
頭の中で旦那の言葉を繰り返してみたら、意識しないのに顔が上がった。
バカみたいに開いた口が塞がらない。
目の前には、そっぽを向いてる旦那。
綺麗な銀色の間から見える耳が、心なしか赤い。
「…旦那」
「…なんだ」
「じゃあ、ちょっと寝かして。」
立ったままだけど、旦那の背中にボフッともたれる。
こっそり腰に腕を回したらため息が聞こえた。
「せめて横になれ」
くっついてることへの異議はない。
かっこいいところを見せたいとか
無理してるのを見たくないとか
恋とは人をどうしようもなく鈍感にさせるもんらしい。
「俺旦那のこと大っ好きだから」
「…それは知ってる」
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