小説執筆2
□そして今年も花が咲く
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「スコール」
ぼんやりと機能し始めた耳が、名前を呼ぶ声を拾った。
うっすら目を開けると、真っ白な壁が見えた。
「起きろよ、もう朝飯出来てるぞ」
「………」
一度だけ軽く肩を叩いて寝室から出ていく長身の男。
最近少し、落ち着きが出てきた気がする。
年月というものはあの男も変えてしまうのかと、変に感心した。
「そういえば」
顔を洗って徐々にいつもの自分を取り戻し始めた俺に朝食を用意すると、サイファーは向かいの椅子に座ってぼそりと呟いた。
「そろそろ新しい候補生が入ってくる時期だな」
「ああ、そういえば」
「また事務手続きが山を作るな」
「…そういうことを言うな朝っぱらから」
やる気を無くすと愚痴るとサイファーは小さく笑った。
「じゃあ、花見行こうぜ」
「花見?」
「かなり暖かくなってきたろ。」
そう言ってテレビを見るサイファーにつられて自分も目をやると、ちょうど様々な花の開花を知らせているところだった。
ふと違和感を感じた。
いや、違和感というよりもデジャヴに近い、頭の中で何かを手繰る感覚。
「…スコール?」
暖かい季節
新しい候補生
花見
「……あ」
「え?」
少しだけ雰囲気の変わった男と、変わらない会話。
「…何笑ってんだ珍しい」
「べつに」
「随分丸くなってきたよな、お前。本当に。」
「あんたもな」
去年も一緒に居たという証拠。
お互いを見てきたという証拠。
「こういうのなら、良いか」
「ん?」
「いつ行くんだ、花見。」
「あー、早めに休みとらねえとなぁ」
今があるなら、過去形も良いものかもしれない。
「事務手続きが山を作る前にしろよ」
「…やる気なくなる。」
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