小説執筆2

□悪戯優先
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普段は白と青を基調としたバラムの街並みが、今日だけはオレンジと黒に彩られる。
同じように、バラムガーデン内もいつもとは違う鮮やかな雰囲気に飾られていた。少し眩しい。

10月31日、ハロウィン。

毎年この日は、食堂でハロウィン用にお菓子が配られる。
クッキーやケーキが数種類、好きなだけ食べられるという学生は大喜びだが食堂の職員は気を失いそうなイベントだ。
なので、普段は別の仕事をしている職員も駆り出されたりする。

「あれ、ゼルとサイファーもお手伝い行ってんのー?」
「ああ、あの二人も手先が器用だから。」

仕事部屋に入ってきたアーヴァインは手に二人分のコーヒーと数袋のクッキーを持っていた。
恐らく食堂で貰ってきたんだろう。

「見かけなかったなぁ、キスティとシュウは居たけど」
「厨房でこき使われてるんじゃないか?」
「エプロンしてお菓子作ってる二人とか見たいなぁー」

正直に言ってしまえば、サイファーのは見慣れている。が、別に惚気るつもりもないので「そうだな」と返しておく。

「スコールもこんなとこ居ないで年少クラスの相手してあげればいいのに」
「たった今仕事が終わったんだ。それに、子供は得意じゃない」
「スコールなら立ってるだけで大人気だと思うけどな」
「セルフィが居るんだから良いだろ」

セルフィは一緒になってはしゃいでるよ、とアーヴァインが楽しそうに話す。
心地の良い好意だなと思ったが、そういえば二人の関係はどうなんだろうか?
まぁ訊く気もないが、コーヒーを飲みながらクッキーを頬張るアーヴァインを見る。
もしかしたらこれもゼルとかサイファーが作ってたりして、と笑っている。
手作りとは思えない精巧なそれに、有り得るなと思った。

と、普段よりも間延びした空気の中、ドアがノックされる音。

「よっ、スコール!まだここに、って珍しいなお前ら二人って」
「わ、ゼルがエプロンしてる!」

嬉しそうなアーヴァインに、お前も手伝いに来いと言うゼルの手には、まさにハロウィンといった色合いの小さなケーキが皿に飾られて乗っている。

「これ、サイファーがスコールにってさ。あいつ食堂のおばちゃんに捕まって抜けられないから、俺が使われてやったんだ」
「なんでゼルは大丈夫なの?」
「俺はクッキー担当で、量産出来るからな。サイファーはケーキ担当で、需要と供給がキッツキツなんだよ」
「じゃあやっぱりこのクッキー、ゼルが作ったんだ」
「おう、美味いだろ!」

そんな中よく作れたなと手渡されたケーキを見る。相変わらず、素人の手作りにしては妙なレベルの高さを感じる。

「でもま、俺もすぐ戻んなきゃいけないんだけど。じゃあな!」

ゼルは踵を返して、アーヴァインからクッキーを一つ奪い取って去っていった。
良い労働力なんだろうなと思いながら、それを見送る。

「うーん、サイファー凄いなぁ…お店で出せるよこれ…ん?んー…?」

ケーキを見に来たアーヴァインが、何かに気付いたような声をあげる。

「どうした?」
「食堂に置いてあったケーキに、こんなプレート乗ってたかなぁ?」

ケーキの上に乗った、チョコレートのプレート。そこには、オレンジで「trick or treat」と書いてある。

「芸が細かいなぁ」
「そうだな」

そのプレートをかじりながら、お菓子を用意しない方が喜ぶんだろうなと思った。
思わず少し笑ってしまったのは、僅かに疼いた悪戯心のせいか。


「アーヴァイン、そのクッキー、一袋貰えないか?」





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