小説執筆2

□トリックとトリック
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「ヘイ!!trick or treat、旦那!!」

どこぞへ出かけていたチェスターが、部屋のドアを吹き飛ばさんばかりに意気揚々と帰ってきた。ついでに言うと発音もやたら良い。

この町に入った時にカボチャやらコウモリの飾りやらがやたら目に入ったが、そうか今日はハロウィンか。と納得はしたが、いまいちリアクションがとれずしばらく沈黙が流れる。

「…無視!?」
「いや…どうしようかと思って」
「だから、trick or treat!」
「クレスは?一緒じゃないのか」
「それ、ある種のシカトだからな」

入ってきた時とは正反対に静かにドアを閉め、文句を言いながら近付いてくる。

「そんなこと言ってもモンスターもアンデッドも日常茶飯事だしな…」
「わかってるって、だから単純に悪戯をさせていただこうかと」
「意味がわからん」
「だって旦那、お菓子もってないだろ!」

それはもう良い笑顔で、年相応のはしゃぎようである。

これは良くないと本能が察した。

「おいチェスター…」
「なに」
「まぁとりあえず、押し倒そうとするのを一旦やめろ」

どうして今日に限って私は窓際の椅子ではなく、ベッドで休んでしまったのだろうか。
昼寝なんてしようとするもんじゃない。
上半身だけ起こした私と、全体重をかけられるチェスターでは分が悪いことは明らかだ。

「おまえっ…ハロウィンは子供達のためのイベントだ!」
「旦那からしたら俺は子供だろ!」
「認められるか、子供らしからぬ事に及ぼうとしてるくせに!」
「だから悪戯だって悪戯」
「実行したかったら仮装の一つでもしてこい!」

その名の通り押し問答である。
しかし、チェスターは私の言葉にニヤリと笑い、勝利を確信した顔をした。

嫌な予感しかしない。

「甘いな旦那…男はみんな狼なんだよ!」
「意味が違う意味が!」


なんて理不尽なイベントだろう。
そう思わずにいられなかった。




「チェスター…もうちょっと僕のこと考えてくれたって…」
「部屋に戻れるまで、あたしが付き合ってあげるよー」






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