小説執筆2

□素直ではない
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「せんせーい!一緒に昼飯食おう!な!」
「また来たのかお前は」

様々な教科の教材が揃う資料室は、籠もって授業の準備をする教師がいるからか数脚の椅子と大きめの机が設備されている。
5限目に受け持ちの授業がある水曜日、数学教師のクラースは資料室で昼を過ごすことを習慣にしていた。
一年生と三年生を担当しているので、教科書も違えば必要なものも違う。よって持ち歩くのは最低限、あとは資料室に保管しているのだ。
いつもは授業と授業の間の休憩時間で手早く済ませるしかないのだが、変なところで完璧主義の気があるクラースにとって水曜日のこの時間は有り難いものだった。

「良いじゃん、週に一回くらい!」
「こんな埃っぽいところで食事なんて体に悪いぞ」
「先生が言うなよー」

そんな習慣にチェスターが加わったのはいつのことだったか。
一年生で、クラースが数学を担当しているクラスの問題児。
人懐っこい性格だが、他の教師と仲良くはなってもそれ以上親しくしているところをクラースは見たことがない。

「ほら先生、手とめて!ちゃんと昼飯食べる!行儀悪いぞ!」
「わかったようるさいな!」

ちょうどキリのいいところで教科書を閉じて、机を挟んで正面に座るチェスターを見る。するとにっこり笑って「よしよし」と自分の弁当を食べ始めた。

「お前さ…普段はクレスたちと一緒なんだろう?」
「うん」
「なんで水曜日だけこんな所に来るんだ」
「先生がいるからだけど?ほんとはさー、いつも先生と昼飯食べたいんだぜ」

そのほうが楽しいしさぁ、と言い終わってから口におかずを入れるところや、飲み込んでから話すところを見ると人に言うだけの行儀は出来ているんだな、と思う。

「じゃあいっそクレス達も連れてくればいいのに何でお前一人なんだ」
「ん?んー、それは思春期男子の複雑な心だよ」
「ああそう」
「でもさ、何だかんだ言って先生も俺に付き合ってくれるだろ」

食べ終わった弁当を片付けながら、チェスターは機嫌良さそうな目でクラースを見た。見られたクラースはパンを咀嚼しながら考えを巡らせる。

「…まあ突っぱねる理由も無いしな」
「じゃあ良いだろ?」
「それもそうか」

そこで予鈴が鳴り、チェスターは立ち上がった。そしてドアを開けかけた手が止まり、少し間をおいて振り返る。

「なあ、水曜日だけでいいからこれからも一緒に昼飯食おう」

今までそんな確認取らなかったのに今更、なんて不思議に思いながらクラースが「別に構わんが」と返事をすると、チェスターは教室に戻っていった。

「変な奴だな」

クラースも必要な教材を手に資料室を出た。


返事を聞いたチェスターが少し安堵したような顔を見せたが、あまりに一瞬でクラースは気付かなかった。







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