小説執筆

□約束
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さっき落としたケースに手を伸ばす

「目を閉じろ。」
「了解」

途中で、思いっきり拳を握った。


「歯ぁ食いしばれ。」
「…あ?」

鈍い音が、海に響いた。


「いぃってえ!!何すんだコラ!!」
「やっぱりこの手でぶっ飛ばさないと納得できなかった、ケースじゃなかっただけ有り難く思え」

人を殴るなんて、いつぶりだろうか。そんなに言うほど前ではないか。
突然の衝撃にさすがに倒れ込んだサイファーの上に乗っかって胸倉を掴む。
ただの衝動だけで動くのもいつぶりだろうか。

「残念なお知らせだ、あんたの処罰は決まってない」
「は、はあ?」
「最初からバラムが保護すると言っていただろう、なに勝手に自分で自分の処罰決めてるんだ馬鹿かあんたは」
「なっ」

殴ったところが早速痣になってきてる。
口の中も切れたらしい、唇の端から血が出ている。いい気味だと思う。

「まぁ確かにバラムとエスタ以外の人間に捕まれば死刑確定だったけどな」
「エスタぁ?」
「馬鹿なあんたでもエスタのトップが誰かわかるだろ」
「…ああ…なるほど…」

正直、思いっきり殴りすぎて俺の手も痛い。
後でコーヒーか何か奢らせよう。

「あんたは死ぬ覚悟とか言うのを決めたかもしれないけどな、俺達にはそんなこと関係ないんだ。」

あと何故か俺の仕事になってるガーデン運営に関する書類処理も押し付けてやろう。

「どれだけの人が心配したか、必死になったか、わかるか。雷神も風神もママ先生もシド学園長もラグナもエルオーネもシュウもキスティもセルフィもゼルもアービンもリノアも、俺も

こんなに皆があんたを生かそうとしてるのに、あんた一人の覚悟で勝手に死なれてたまるか

他の国の奴らがどう思うか容易に想像できるけどそんなことも関係ない

あんたに罪悪感なんてものがあるんなら、その重圧も皆の思いも全部抱えて天命を全うしろ!!」

あ、息切れがする。

「…お前…ちょっと見ない間に随分と喋るようになったな…」
「あんたが喋らなくなっただけだろ…一人でいるからだ」
「お前には言われたくねえよ」

掴みっぱなしだった胸倉を離したら、思ったより強く握っていたらしく少し手が痺れた。
だるいが、立ち上がってサイファーを見下ろす。

「サイファー。」
「なんだよ」

「帰るぞ」

手を差し出す。
こんなこと、初めてしたかもしれない。

「…スコール」
「なんだ。早くしろ腕が疲れる」
「死ぬ覚悟は、お前もあるだろ」
「……どうでもいい」

このタイミングで何を言い出すんだこいつは。

「皆あるんだよ、SeeDには。そうじゃなきゃ生きれねえからな」
「あんたSeeDじゃないだろ」

また少しイラついてきて、差し出した手を引っ込めようとした時。
サイファーが、いつもの自信に満ちた顔で、笑った。

「次のSeeD試験、受かってやるよ」

俺の腕を掴んで立ち上がる。

「……期待は、しない」
「じゃあ賭けようぜ。」
「いきなり暢気だな」
「うし、帰るかぁ」

もう、波の音は微かにしか聞こえない。



訊かなくても、何となくわかった気がする。
あの時、俺が誰かに手を引かれているとき、サイファーは待っていたんだろう。



「そういえば、リノアがあんたのこと痛めつけたいって」
「え」
「皆も一発ずつ殴りたいらしい」
「……………」





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