小説執筆

□王の枷
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きっと彼は私の言うことを無碍にはしないだろう。
軽蔑も嘲笑もせず、ただ困惑するのだろう。

ならば私は、私を軽蔑し、嘲笑したい。
出来そうには、ないけれど。


「主よ」
「なんだ?」
「用もないのに我々を呼び出すのは感心しないな」
「良いじゃないか少しくらい」

嬉しいんだ、と言って彼は笑う。
精霊を自在に操れる自分の力ではなく、精霊たちが存在していることが嬉しいのだろう。
証拠に、彼は旅が終われば私達との契約を、切る。

「マナが尽きようとしているのに。」
「それはそうなんだが。戦わせるためだけにお前たちを呼ぶのは、嫌でな」
「…いつも傍にいると、言っただろう」
「姿も見えなければ、話も出来ないじゃないか。」

事の重大さはわかっているんだが、と気まずそうな顔をした彼は、王である私を従える主としては優しすぎるのだろう。

「…私は、全てを見ていなければいけない。それが私の務めだからだ。」
「? ああ、」

人間と精霊は、まるで違う。
精霊は平等であり、全体でなければならない。
人間に力を貸しても、精霊は精霊でしかないのだ。
そうでなければいけない。

そうでなければ、いけないのだけれど。

「それなのに私は、主だけを見ていたいと思う。」

主の目が、見開かれた。賢い彼は、もう私の言葉の意味を察している。
これは生まれてはいけない感情。
いや、生まれるはずのない感情、だ。

「…大丈夫。きっと、消えていくさ。」

ああ、軽蔑も嘲笑も無ければ困惑でもない。
代わりに自らを嘲笑うことも出来ない。そんなことをすれば、優しく賢い彼をも貶めてしまう。

「お前は、大丈夫。素晴らしい王だから」
「当然、そうでなくてはならないのだろうな。」

何が王か、何が精霊か。

「そう、大丈夫だ。笑ってくれ、主よ。」

たった1人の人間の、悲しげな表情すらどうにもできない。





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