小説執筆

□策略
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「今年はダンボール何箱かしら…」
「………?」

キスティスがぽつりと呟いた言葉は、それだけでは意味がよくわからず、俺の眉間に僅かに皺が刻まれる。
それを見た彼女は無表情のままカレンダーを指差した。

「もうすぐでしょ?そろそろ届き始めるわよ。」
「ああ…バレンタイン。」

その単語を口にしただけでなんだか胸焼けがした気がする。
そこかしこに充満した甘い匂いの中で生活しなければいけないこの時期は、あまりそういうものを好まない俺の気を沈ませるのに充分だ。
伝説のSeeDとかいうレッテルを貼られてからは更に。

「去年は何箱だったかしら?」
「知らない」

一方的に送られてくるそれに関しては、俺は関与していない。
不審物か否かのチェックをパスしたものは俺の仕事部屋に届けられるが、俺が甘いものを苦手としているのを知っているゼルやセルフィが全て処理する。
捨てるとかじゃなく、食べるという方向で。

「人からの好意は有り難く受け取るべきよ?」
「受け取っているさ。好意は。」

しかしあくまで一方的なものなのだから、俺はどうにも応えることが出来ない。
まず顔も見せずにチョコだけ寄越すというのは、本人はどうしたいんだろうか。理解に苦しむ。

「ま、無理な話よね。あの量はさすがに。ゼルとセルフィも最後の方げんなりしてるわ」
「毎年毎年よくやるな…」
「でも限界を感じたら孤児院に送ってるわよ」
「なるほど」

その手もあった。

「ところでスコール。あなたはどうするの」
「……あいつ?」
「そ、あいつ。」

バレンタインの話になってから、どうせこの話題になるだろうとは思っていた。
キスティスはニコニコとしているが、俺で楽しんでいるのが見え見えだ。

「たまには俺が先に作ってやろうとは思ってる」
「あら珍しい。でも手強いわよ。なんてったってあのロマンチスト様なんだから。」

確かにあいつはいつから準備してるかわからない。
少なくとも今日の時点で計画を練り終わっているだろう。

「でも、たまにはそれを潰してやるのが楽しいんだ。」
「まあ、ひどいわねー」
「思ってもないくせに」

たまには先手を打ってやらないと、俺のプライドが許さない。
それに、あいつは自分の計画をダメにされても嬉しそうに笑う。
本当に驚いた顔をした後に、「俺様のせっかくのプランを」と言いながら、嬉しそうに笑うのだ。

「今年はそれが見たい気分なんだ。」
「なんてのろけかしら…ごちそうさま。」

キスティスは呆れたように笑って、ひらひらと手を振って仕事に戻っていった。

それを見送ってから俺もペンを握り仕事を再開した。
覚悟してろよ、と頭の中のロマンチストに吐き捨てて。





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