小説執筆

□遠い日
2ページ/2ページ


スコールの中から消えていった 昔。

石の家にいるときは、よく雪が降った。
バラムとは少し気象が違うからか、あそこの雪は踏むと音がした。
子供はそれが楽しくて、雪が降れば外を転げ回った。
足跡が沢山ついた雪の上を。

俺とスコールは、雪が降った日は決まって朝早くに目が覚めた。
何故かは知らない。
特別仲が良い訳じゃなかった。むしろ、逆だった。
でも、いつも誰よりも早く、2人して目が覚めたのだ。

「…おはよう」
「…おう」
「雪…積もってる。」
「そうだな」

そんな会話をしていた。今朝と同じように。
スコールはいつも1人で居るくせに、俺と一緒にベッドを飛び出して外を歩き回っていた。
俺も、いつもは自ら遠ざけていたスコールと並んで歩き回っていた。

何故かは、知らない。


(たぶん、もう俺しか覚えてない、そんなこと)

G.F.をジャンクションしてるんだから、こんな些細なことは消えているに決まっている。
スコールは今、この足跡を見てもなんとも思わないんだろう。

「なあ、サイファー」

珍しく物思いに耽っていたら、いつの間にか数歩前に行ったスコールが俺を呼んだ。
視線をやったが、当の本人は俯いている。というか、足元を見てる。

「なんだ」

隣に並んで返事をしても、足元を見たまま動かない。
何かを考えてるみたいだ。

「なあ、サイファー」
「なんだって。」

スコールの視線は自分の足元から後ろの足跡を辿っていく。
しばらくそうしてから、やっとこっちを見て、言った。

「俺達、いつもこうしてたよな」
「え」
「そんな気がする」

もう一度足跡を見つめるスコールを、俺は呆然と見つめた。

「また、忘れてるのか、俺は」

独り言のように聞こえた。
独り言にしたくなかった。

「いいや」

自分の中で複雑な感情が揺れた気がした。

「お前はちゃんと覚えてる。」

未だに足跡をなぞっている目を、俺は冷え切った手で塞いだ。


本当は嬉しかったのだ。
朝、こいつが部屋に来た時も。
今、こうして並んで歩いてることも。

「お前は、ちゃんと覚えてる。」

昔は良かったなんて思わない。
でも、あの時と同じこの光景がスコールが作ったものだと思うと、昔も良かったと思う。

「部屋、戻るか」
「ああ」

そしてスコールは、俺の手を握って少し笑った。
それは昔となんら変わっていなかった。


*
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ