小説執筆

□遠い日
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目が覚めたら寒かった。
しっかり布団に潜っているのに、本能的に寒い、と思ったのだ。

(こりゃアレか…?)

もしや、とベッドから起き出してカーテンを開ける。
すると、結露した窓越しでもよくわかる真っ白な視界。

「…積もってる…」

大寒波がくる、と聞いてはいたが、まさか雪が降るどころじゃなく積もるとは。
ここ数年見なかった景色にしばらく惚ける。
しかしそんな寒い日の暖房無しの部屋に部屋着一枚で突っ立ってるなんて無謀だ、と思い上着を着た。

時計を見れば、午前5:30。

「…なんで起きたんだ、俺…」

今日は遠征も無ければ外に出る仕事もない。
そんな普通の日に、こんな早朝に起きることなど無いのに。
しかし不思議と目覚めが良いので二度寝も出来ない。

「どうしたもんか…」

とりあえずコーヒーでも飲むかとキッチンに向かう。
すると、まるで俺が寝室から出るのを見計らったかのように電子音を鳴らして玄関のドアが開いた。
突然の来客に正直ビックリして若干身構える。
だが、この部屋のドアを開けることが出来るのは、暗証番号を知っている俺ともう1人だけなのだ。

「…なんでこんな時間に起きてるんだあんた」
「お前がそれを言うのか」

同じように驚いた顔の客、もといスコールに、なんでこんな時間に訪ねてくるんだと訊き返す。

「雪が積もってるんだ。」
「知ってる。」
「何故か早くに目が覚めてな」
「俺もだ」

立ったまま向き合って、真顔で淡々と。
なんか変な会話だ、と思った時にスコールは小首を傾げた。

「何してるんだ。早く着替えろ。」

がっつり防寒している奴の姿に、今やっと気がついた。


バラムに降る雪は、水分が少ない。
だから、2人して目的もなく雪を踏んで歩いても、足音はない。

「静かだ」
「こんな時間に外に出るのは俺らくらいだしな」

ゼルとかセルフィとか、居そうだなと思ったが今日初めて雪を踏んだのは俺とスコールらしい。
少し後ろを見ると2人分の足跡が続く。
2人分だけの、足跡が続く。

(……ああそうだ)

既視感だと思った。
でも違う。
これは、消えていった昔と、同じ光景だ。
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