小説執筆

□決まり事
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「ということが有った。」
「へえ。珍しいもんだな」

もうすぐ12月23日になろうかという時間。
俺は、少し前に出来上がった自作の夕食を、年に1回の誕生日を9割以上仕事で潰された奴と食べている。

「今日中に帰ってくるかもって言わなかったのか」
「言ったら騒がしい面子で朝まで飲むことになるが」
「それは御免だけどよ」

そもそも本当の帰着予定は明日の朝だろ、と言ったら、まぁ、と短い返事が返ってくる。
でも俺には確信が有った。

「あんたは何が何でも今日中に帰ってくると思った」
「お前が手料理つくるとか言うから」
「言わなくても帰ってくるくせに」
「誕生日ですから。」

そう、誕生日。
ゼル達と昼食をとって、プレゼントを用意するために今日は定時で仕事を終えた。
前々日に予告したのだ。当日は俺が夕食を作っておくと。

「いつでも作るのにな」
「俺が居ない時、自分の為にだろ」
「だってあんたの料理の方が美味い」
「それはそれは」

ありがとうございます。とニヤリ顔で言ってくるのを見て、少し恥ずかしくなった。

「でも先方の誘いを断って帰ってくるのはどうかと思うぞ」
「お偉いさんと堅苦しい食事でせっかくの誕生日を終わらせてたまるか」

いつの間にやら皿は綺麗に空になっている。
嬉しい、というのは決して外には出さない。
単純に気恥ずかしいから。

「あぁ、あと五分だ」
「そうだな」
「なあ」

テーブルに腕をついて、ぐいとこちらに寄ってくる。
ワインを飲みながらちらっと見ると、いつもより邪気の無い笑顔があった。

「言うことあるだろ?」
「もっとかわいらしい言い方が有っただろうに」
「時間がねえんだ、かまってられるか」

グラスを置いてわざと呆れたようにため息をついてやる。
それでも変わらない笑顔に、今度は俺から顔を寄せた。


「誕生日おめでとう、サイファー。」


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