小説執筆

□裏切り
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「ねぇ、スコールって、あいつが好きなんでしょ?」

何の話かわからないふりを出来たら、どんなに良かっただろう。
リノアは「あいつ」としか言わなかった、でもリノアがそう呼ぶのは残念ながら奴だけで。

「サイファーのこと、好きなんだよね」
「そんなわけ無いだろう」
「ううん、スコールはあいつが好きだよ。」

リノアが静かに首を振る。
俺は、何故かリノアから目を反らした。

現在バラムガーデンはある一つの事項を最優先に動いている。

戦犯であるサイファーを、どの国よりも早く確保すること。

最初からバラムガーデンが保護する事になっていたのに、あの馬鹿は逃亡した。
風神も雷神も連れずに、1人で。
悲惨な魔女戦争の片棒をかついだのだから、どう言い訳しようと重罪だ。
エスタならともかく(ラグナはバラム寄りの人間だ)、他の国にでも捕まったら即刻死刑確定だろう。
こちらからの弁護など聞き入れてもらえるはずがない。

「スコールは誰よりも一生懸命になってる」
「…幼なじみだからだろう」
「ううん。ゼルより、セルフィより、キスティスより、アーヴァインより、」
「………」
「イデアさんより、シドさんより、一生懸命だよ」

自分でもわからなかった。
どちらかと言えば、皆より冷静だと思ってた。
でも、言葉を、否定できない。

「…過去形に、したくないんだ」
「うん」
「あんなに何回も俺の前に立ったくせに。ボロボロになっても、まだ立ちはだかったくせに」
「うん」
「…必死になれるくせに、今はあっさり消えようとしてやがる」

沸々とわいてくるこれは、怒りなのか悲しみなのか悔しさなのか。
多分、その感情全てだ。

「許したくないんだ、罪の重さを認めてるなら毎日吐きそうになるくらいの罪悪感と一緒に100まで生きろよ」
「そうだね」
「何も失うものがない今死んで、月日が経てば消えていくような不名誉だけが罰なんて相応じゃない」
「そうだね」
「何もないくせに誰も居ないくせに、何で俺たちの手を拒むんだ!」

言葉にすれば、気付きたくなかったものにも気付いてしまった。

一度、魔女戦争の直前、サイファーは処刑されたと噂された時があった。
真偽がわからなかったあの時の俺達には、その噂は真実だった。
皆がその真実を受け入れた時、反発したのは俺だけだった。
『俺は過去形は嫌だ』
そんなことを言った気がする。
そして、サイファーのことを過去形にした皆に対して、怒りを感じていた。
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